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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第4部【斬首塔編】 - 第2章 斬首塔での悲劇
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忌まわしき儀式の場(1)

 クロを追ってすでに十数分が過ぎようとしていた。

 僕の体力は大丈夫だけどローエくが心配だった。ダメージを負うごとに身体能力が上がるとはいえ本人の苦痛は増していくばかりだ。


「僕は大丈夫です……っ」


 苦し紛れにも笑顔を浮かべるローエくん。

 この森を抜けた先にイッちゃんとナユタちゃんが待っているはずだ。取り返しがつかなくなる前に必ず救い出さなければならない。

 少しして月の光が差し込んでくる。

 いっそ力を込めるとひらけた空間に出た。明らかに人工的に造られた場所。二重構造の城壁が左右にひろがり、まるで古代ローマのような建築物が並んでいる。いつかの時代の王の石像や不死鳥、阿修羅といったように文化の入り混じった異質感があった。

 それらの中央にらせん型の塔が天に向かってのぼっており、十メートルあたりの頂点には首切り台がぽつりと置かれてある。不思議なことにサビを見せない首切り台はこの空間の象徴として来訪者を待ち構えているようだった。


「……っ」


 ドクリと心臓が高鳴る。

 ここはおそらく僕らの目的だった斬首塔だ。

 ハナちゃんのいうことが正しければ、


「――――過去の僕が殺された場所」


 無意識に速い脈拍は前世の僕が警鐘を鳴らしているからか。皮膚周りから温度が消えていく。後頭部が妙な熱を帯び身体が浮遊している錯覚を覚えた。


「ウシオさん?」

「……ごめん、大丈夫だよ」


 ローエくんの呼びかけで我に返る。

 たしかにこの場所はかつてコクメと呼ばれていた僕が死んだ場所かもしれない。

 だからって今は違う。僕がやるべきことはイッちゃんとナユタちゃんを救うことだ。未来の悲劇を防ぐにはなおさら立ち向かわなければならない。


「……ふう」


 深呼吸をおいて前を見据える。

 斬首塔の前には二人の人物が待ち構えていた。クロとワラジムシの獣人だ。

 クロが深くかぶったフードの奥で笑う。


「やあやあ諸君。よく私たちに追いつけたものだね」

「違うね。お前は僕たちが追いつけるようわざと力を抜いたんだろう」

「……ほう」


 僕は追跡の最中で違和感を覚えた。

 クロは常に僕のセンサーの圏内にとどまっていた。まるで僕たちを誘っているかのように。

 直感的にわかった。


「お前の狙いは僕たちをこの斬首塔に誘い込むこと……そうなんでしょ?」

「いやはやバレてしまったか。君も慧眼を持つようになったね」

「……理由までは知らない。ただイッちゃんとナユタちゃんは返してもらうぞ……ッ!!」



 ――――っ



 瞬間的に力を爆発させ獣人の背後に回る。いくらワラジムシの動きが速いとはいえ不意をつけば一手先の世界で動けた。ワラジムシが抱えていたイッちゃんをすばやく取り返し、次にナユタちゃんのほうへと目標を変える。

 この間わずか零コンマ一秒。

 しかし一筋縄でいくはずもなく、


「してやられたよ。思いのほか速いんだね」

「……くそっ!」


 僕の手が届く直前で瞬間移動を使われてしまった。クロの声が少し離れた石像の近くからする。


「ジジッ!」


 ようやっと事態を呑み込んだワラジムシが僕に襲い来る。

 僕は目をやることなく熱センサーを頼りに軽々と身をひるがえした。そのままもと来た場所へと戻る。ともかく気を失っているイッちゃんを寝かせた。


「すごいですねウシオさん……」

「いや、ナユタちゃんを取り返せなかった……。ごめん」

「ナユタは僕に任せてください」


 言い終えた途端、ローエくんが相手陣へと飛び込んでいった。

 狙いはナユタちゃんをかかえるクロ。



 ――――ドンンッッ!!



 ローエくんとクロとを結ぶ直線状に一つの影が飛来した。

 鈍い衝撃とともに現れたのは、


「……ッ!? カーリィッ!!」

「ふん……っ」


 僕たちを裏切ったカーリーだった。

 彼はことさら言葉をかわすことなくローエくんに攻撃を加える。

 ローエくんも能力を発動し対等に渡り合った。


「ローエくん!」

「僕のことは大丈夫です!、それよりナユタのこと頼めますか!? ちょっと、こいつを一発なぐってやらないといけなくなったもんでッ!!」

「わかった! こっちは任せて」

「お願いしますッ!!」


 ローエくんはカーリーとの距離を図りながらこの場から離れていった。

 この場に残ったのは僕、獣人、そしてクロの三人。


「ハハハ、二対一になったな。君にとって不利なんじゃないか?」

「そんなことはないさ」

「また強がりを」

「…………」


 ……クロの言う通りこの状況はまずいかもしれない。

 シンプルに僕とクロたちだけならまだ立ち回れた。

 だけどこっちには気を失ったイッちゃんがいる。彼女をかばいながら戦うには少々無理があった。こんなときにユウ兄さんたちがいてくれればと思うが都合のいい話だ。


「心配しなくていい。その子に手を出すつもりはないのだから」

「…………」


 心を読まれたかのようでドキリとしたが鵜呑みにはできない言葉だった。


「どうして断言できる?」

「決まってるだろう。これは私たちの戦いだからだ」


 私たちの戦い……?

 クロの言葉が何を意味するのか、さっぱりわからない。

 その先を考える前に、クロはこう続けた。



「――――それに、彼女には生きてもらわねばならないからな」



 今度こそ思考が止まった。

 瞬間、


「行け」

「ジジッ!!」


 戦いの火ぶたが切って落とされる。

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