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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第4部【斬首塔編】 - 第1章 斬首塔への道筋
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ドナドナ(4)

 ダメージのせいで氷竜鎧の術が解けてしまう。

 いったい何があったっていうんだ……?


「うおおおおおお‼」

「悠長に考えてるひまはなさそうだね……っ!」


 こうなっては仕方がない。氷竜鎧がなくったって戦える。僕はもともと『忍者』×『暗殺者』なんだ。スピードの面では劣るまいっ!

 氷の短剣を生み出し片手にとる。


「ふっ、ふっ、はああっ‼」


 ローエの攻撃速度も急激に加速している。さっきの攻撃といい、なにかしらの変化があるのは間違いなかった。適度にあしらいながら様子をうかがう。

 すると気絶していたカーリーが起き上がった。ふらつく彼をナユタがあわてて介抱する。彼は見違えたローエの姿に絶句していた。


「あれが、あいつなのか?」

「わたしの能力の加護を受けてないんだよ。なのにあの力……」

「――――まさか、覚醒したのか?」


 ……覚醒?

 聞き慣れない単語にひっかかりを覚える。

 僕はこの世界にそれほど詳しくない。ここは詳しい人に聞いておくべきだろう。ローエから距離をとり、しげみに隠れているリンさんに小声で尋ねかけた。


「覚醒とは一般人の能力が開花することを指します。わたくしも最初はなにも持っていなかったのですが、あるとき目覚めました」

「それがリンさんの『幻影を見せる』能力なんだ」

「はい」


 つまりローエはこの戦いの中で新たな力を手に入れたわけだ。

 これはまた厄介なことになってきたぞ。現状を分析するに彼の能力は不明だけど、氷竜鎧の術を砕くだけのパワーは出せることが分かっている。


「もしかしてとんでもない化け物に出会っちゃった?」

「いいえ、きっと違います。彼はきっと『トランサー』系統の能力なんですわ」

「と、とらん……うおっ⁉」


 襲いくるローエの猛攻を紙一重で回避する。

 勢いのとまらない拳はそのまま大地にクレーターを生み出した。

 近くにいたリンさんが心配だ……!


「よそ見してるなんて余裕だね‼」

「こっちにも事情があるの‼」


 再び交戦に入る。

 今さっきの威力を見たかぎり一発でも食らってしまえばそれこそ僕の負けだろう。だったら出し惜しみはしてられない……ッ!


パキパキパキッ


 肌にひびが生じ、獣人へと変身する。

 氷の短剣に毒をしみこませた。命を奪うことはないけど、こいつは痺れますぜ……!


「いくぞッ!」

「くっ……」


 獣人のスピードを得たことで形勢が逆転する。


 スパスパッパパパパパッ


 毒入りの短剣を何度も往復して切りこんだ。


「そろそろ力が入らなくなってきたんじゃない⁉」

「ま、まだまだ……ッ‼」


 どうやら真性のマゾみたいだね。だったら遠慮なくいかせてもらう!


 スパッスパッ

 スパパパパパパパッパ


 空気が切れる。

 僕は何度も短剣をふるった。

 たとえ相手が獣人であろうとも気を失う毒をあびせてやった。


 ――――そのはずなのに。


「……な、なんで、なんで倒れないのッ⁉」

「はあっ、はあっ」


 ローエが倒れることはいっこうになかった。

 むしろその瞳の奥には図太い芯が垣間見える。


「ォォオオオオオオオオォォォォォォォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ‼」

「なっ⁉」


 身体はもう限界のはずなのにどうしてこれほどの力がっ! それに獣人になった僕のスピードにもついてこれている。

 逆転していたはずなのに、いつのまにか一転攻勢し始めていた。

 額から嫌な汗が浮かんだとき視界のすみにリンさんがいるのを見つける。無事でなによりだ! それにリンさんには『トランサー』のことを聞かなくてはならない。


「氷陣の術ッ!」

「うっ⁉」


 意表をついて氷の陣を貼り相手の足をとめる。すぐに破られるだろうが多少の時間稼ぎにはなるだろう。それよりも……。


「ねえ、リンさん。さっきの『トランサー』ってなんだったの?」

「『トランサー』はとある能力の系統を意味します。基本的には蓄積したダメージをエネルギーに変えることなのですが、こうもエネルギー変換率の高いトランサーは初めて見ます」

「傷が増えるたびに強くなるってことだよね。そんなの無敵じゃないか!」

「なんだかウシオさんより主人公っぽいですわね」

「ハナちゃんみたいなこと言わないで!」


 こんなところで姉妹の影を見ることになるとは思いもしなかった。


「それにしては奇妙です。トランサーは不死身ではありません。あくまでダメージをエネルギーに変えるだけですので。どうしていつまでも立っていられるのか……」

「あっ、それはたぶん簡単なことだよ」

「え?」


 即答で返されるとは思っていなかったのか、リンさんの目が点になる。その表情も妹であるハナちゃんにそっくりだった。

 僕には心当たりがあった。

 あれほど傷を負っても倒れない理由。

 僕は苦笑して言う。


「男の意地ってやつだと思う」

「男の意地、ですか?」

「きっと死んでも守りたいものがあるんだよ。だからいくら傷ついても倒れない」


 ナユタという女の子のためかもしれない。

 獣人を倒すという決意があるからかもしれない。

 僕にはわかるはずもない。

 だけど、僕だって男なんだ。


 ――――こんなところで倒れるわけにはいかない。


「リンさん」

「は、はい」

「次の一手で勝負を決める。例のやつをお願いしてもいいかな」

「わかりましたわ」


 リンさんの顔が引きしまる。頼もしいったらありゃしない。

 やっぱり女の子には敵わないなあ。

 だけど、


「男だって捨てたもんじゃないんだよッ‼」

「そろそろ引導を渡してやるぞ、獣人……ッ!!」

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