常軌を逸した獣人(3)
猛スピードで迫りくる赤鬼に、僕とリュウは近接戦闘で対応した。
ガッガッガッ
僕らの竜の鎧に赤鬼のこぶしが打ちこまれたかと思えば、僕とリュウのこぶしが赤鬼の肉体をとらえる。
「こいつ、生身のくせにまったく効いてない……」
「……逆に鎧をきている俺たちのほうがダメージを受けっちまってる!」
「リュウ、術を使おう。風加の術」
「……ああ! 炎加の術!」
ヒュウウウウウ
ボオオオオオオ
それぞれのこぶしに、風と炎がまとわりつく。
ガガガガガガッ
ゴッ! ゴッ!
「ダメージがないなら与えられるまで攻撃すればいい。この速さにはかなわないでしょ?」
「ッ!」
「……俺だって負けてねえぜ! 俺は一撃一撃を重い攻撃にしてやる!」
「ッ!!」
鋼の肉体をもつ、阿修羅化した赤鬼でも、さすがにこの攻撃には耐えられなかったのか。
僕たちの隙をみて、少し距離をとった。
「今の攻撃、けっこう効いたみたいだね」
「……だな! まだまだ行くぜ!」
「キエエエエエエエエエエエエッ!!」
「いや、待って……! あいつ刀を取り出した。こぶしで戦うのはまずい」
「……ちっ、しかたねえ。こっちも剣だな! 炎加の術!」
「そうだね。剣氷の術!」
ボオオオオオオ
ピキピキピキッ
リュウは使い慣れた双剣をとりだし、炎をまとわりつかせた。
一方、クナイしか武器をもっていない僕は、氷の剣をつくった。
「キエエエエエエエエエエエエッ!!」
「いくよ」
「……ああ!」
キンイイインッ
ガキンガキンッ
剣と剣がぶつかり、耳が痛くなるような鋭くとがった音が響きわたる。竜の鎧を装着した僕とリュウは、阿修羅化した赤鬼のスピードに負けじと戦うことができた。
キンキンッ
僕の氷の剣とリュウの炎の双剣が赤鬼を斬りさこうとする。
しかし、赤鬼の剣さばきは恐ろしいほど達者で、一つも傷をつけることができない。
「……俺たち二人の攻撃をふせぐとは、相当強いな!」
「そうだね……。ここは遠距離攻撃にうつったほうがいいかも」
「……よし、まずは距離をとるぞ!」
鎧の術の影響で冷静な僕の指示に、熱くなっているリュウが従う。
「ソウハサセナイゾ」
「……こいつ距離をとらせないつもりだな!」
「まあ妥当な判断だよね……。氷壁の術……」
ピキピキピキッ
僕たちと赤鬼のあいだに厚い氷の壁がうまれる。
「ジャマダ」
パキンッ
赤鬼がこぶしをつくり一振りだけで、いとも簡単に壊されてしまった。
「やっかいだね……」
「……俺にまかせろ! 爆風烈火の術!」
ドガアアアンッ
まるで火山が爆発したかのような風が赤鬼におそいかかる。さすがの赤鬼もあっけなく吹きとばされてしまった。
「ナイスだよリュウ……。よし、このくらいの距離なら」
「……そうだな! くらえ、爆炎砲火のじゅーー」
リュウが術を発動しかけたとき、彼は突如、体勢をくずしてひざをついてしまう。
「どうしたのリュウ……!?」
「……ちっ、そろそろ竜の鎧に限界がきちまいそうだ! 所詮、ただのモノマネだからな」
「そうか……。ならそろそろ決着をつけよう。立そう?」
そう言って僕はリュウに手を差しのべた。
「……バカの助けなんざいらねえよ。……まあ今回ばかりは頼ってやる!」
「ははっ……。 正直じゃないね……」
「……うっせ! さあ、やるぞ!」
「うん……!」
リュウを立ち上がらせ、吹きとんだ赤鬼にザッと向き合う僕たち。
バッ
僕とリュウは同時にとびだし、赤鬼をはさみこむように、双方向から攻撃をしかける。
「「雷槍の術!」」
僕とリュウの声が重なり合う。
何本もの雷の槍が赤鬼をつらぬかんと襲いかかる。はさまれた形で攻撃された赤鬼は大きくジャンプして回避した。追いかけるようにリュウが夜空へと舞いあがる。
空中でリュウと赤鬼の二人が平行に向かい合った。
「……そらっ!!」
「ッ!?」
ガシャンガシャンッ
大きな手錠が赤鬼の手足につけられる。これはナツミちゃんの技だ。
リュウはにやっと口の端をつりあげて言う。
「……チェックメイトだぜ!」
「ナニッ!?」
「こっちだバケモノ……!」
「ッ!」
拘束された赤鬼が真下に視線をむけると、そこには赤鬼にむかって腕をつきだしている僕がいた。まるで何かを放つような体勢だ。
「……いけウシオ! でっかいの一発かましてやれ!」
「うんっ! 終わりだ赤鬼! 氷竜の術!!」
「ッ!!」
ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!
竜の鎧の影響か、威力を増し、姿かたちが変化した氷の竜が出現する。
氷竜は迷うことなく赤鬼に襲いかかる。
「「……勝った!」」
僕とリュウが勝利を宣言した。
そのとき。
バキンッ
赤鬼を拘束していた錠が無理やり壊された。
「バカナヤツラダ!」
「なに……!?」
「……なんだと!?」
自由の身になった赤鬼は口から炎を吹き出し、その勢いで氷の竜を紙一重で避けた。
氷の竜はむなしくもそのまま空へと昇っていく。
ストッ
バタンッ
術を避けた赤鬼はきれいに着地したが、力尽きたリュウはそのまま地面に落ちてきた。
スウウウウウパアアア
「鎧が……」
「……消えちまった。時間切れか……」
力を使い果たした僕とリュウは竜の鎧を維持できなくなり、鎧は光のチリとなって消えてしまった。
「ブザマダナ」
「……うるせ……。俺はまだ戦える……ぜ」
ペチン
ふらふらと立ち上がり、ふるえる腕で赤鬼にパンチをいれる。しかし、弱々しいパンチなど効くはずもなかった。
ガッとえりをつかまれ、空中に持ち上げられるリュウ。
「タノシカッタ。オマエタチ、ツヨイカラナ」
「……それはどうも」
「シカシ、ユダンシタノガ、ワルカッタナ」
「……ふっ」
「……ッ?」
絶体絶命の状況にもかかわらず、笑うリュウに首をかしげる赤鬼。
「ナゼ、ワラウ?」
「……油断がいけなかったって?」
「……アア」
「……その台詞、そのままそっくりお返ししてやるよ」
「土隆起の術!!」
「……ナニッ!!?」
突然、赤鬼の足元の地面が浮き上がった。
その反動でリュウを手放してしまう。
「爆風の術!」
連続しておそいくる攻撃に、赤鬼は為す術もなかった。
赤鬼は再び空中へと投げ出される。
「さあ、いくぞ!!」
「オマエハッ!?」
赤鬼の真下にいたのは、元気にピンピンとしている僕だった。
「終わりだ!! 氷竜の術!!」
ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!
先ほどと比べると威力が落ちている氷の竜が再び現れる。
「ソレナラ、オレノホノオデ……!!」
ゴオオオオオオオオ!!
口から炎を吹き出し、氷の竜と火炎が均衡する。
「マダマダダナ!!」
「……油断したな!! 戻ってこい、氷竜!!」
ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!
天空から叫び声が聞こえる。
月の照っている夜空から、もう一体の氷の竜が現れた。
「ナニ!!? マサカ!!?」
「そう、さっき空へとむかって行った竜さ!! いっけえええええええええええええ!!!」
ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!
「グアアアアアアアアアアアアッ!!」
二体の絶対零度の竜が、灼熱の赤鬼を食らい尽くした。
*
なんとか赤鬼を倒すことができた僕は、力尽きてるリュウのもとへと駆けよった。ちなみに、赤鬼はもとの姿になってあおむけで倒れている。
「リュウ、大丈夫?」
「……ああ、なんとか立てそうだ」
「そっか。じゃあ手を貸さなくても大丈夫だね」
「……当たり前だ。誰がお前みたいなバカに」
「なっ! またバカって言ったな!」
「……ふんっ、バカにバカといって何が悪い?」
「こんにゃろ~! バ~カ!!」
「……うるさいバカ」
「バカ!」
「……バカ!」
「おい……」
「「……?」」
僕たちが言い争っているところに、倒れている赤鬼が声をかけてきた。
「お前……強いな」
「まあね!」
「……いやいや、俺のことだろ?」
「何言ってんのさ、僕だよ。とどめをさしたのはなんといってもこの僕だから!」
「……バカ。俺の演技があってこそだ」
「違いますうー! 僕が強かったからですうー!」
「……なんだ、やるか?」
「上等じゃないか! 表に出やがれいっ!!」
「お前……」
赤鬼に指をさされ、動きをとめる僕。
「最後、どうしてあんなにも体力があったんだ? その前はもうふらふらだったろう?」
「ああ、それね。実は僕、死にかけると体力が回復するんだよ! 一日に一回だけどね!」
「……なんだと?」
「……ん? なんでそんなに見つめるの?」
ネタ晴らしをしたあと、なぜか僕を見つめてくる赤鬼。うすうす感じてたけど、こいつ……まさかホ……。
「……あの目つきの鋭いタカと一緒か……」
「イーグルのこと? イーグルも僕と同じ能力を持っているの?」
「……そうかもな」
「……?」
含みのある言い方に、僕は違和感を覚えた。
どういうことなんだろ?
僕が目をつぶって考えていると、赤鬼が独り言のように小言をこぼし始めた。
「……オレは……。ただ強いやつと戦いたかっただけなんだ……」
「「……?」」
突然のことに、僕とリュウは顔を見合わせた。
「……どういうことだ?」
「オレはもともと白い街の人間だった」
「じゃあ、ライオネルと一緒なんだね」
「ああ、そうだな。昔はよく暴れたもんだ。とくに剣術では負けなしだ」
「確かに。さっきの剣さばき、すごかったもんね」
うんうんと首を縦にふり、あのときの恐ろしさを思い出し、みぶるいする。
「王宮で行われる武道大会でも決勝にまでのぼりつめた。最後には負けたけどな。悔しかったよ。もっと強くなりたいとあんなにも願ったことはなかった」
「……」
「ちょうどそんなときだったか」
「何かあったの?」
「ああ……」
と、苦虫をかみつぶしたかのような表情をしてから、赤鬼は続けた。
「王宮のある人物から声をかけられたんだ。『もっと強くなれる方法があるぞ』って」
「まさか……」
「そう、あの黒装束の男だ。そいつはオレにあるものを渡した」
「……それって?」
「『獣人化』してしまう薬だよ」
「「っ!?」」
想像もできなかった話に驚愕する僕とリュウ。
僕は前のめりになる勢いで赤鬼に質問する。
「『獣人化』は自然に起こるんじゃないの!?」
「普通はな。でも、黒装束の男はその薬をつくることができたようだ。だが、誰にでも通用する薬ではないようでな」
「……つまり、強い器を持つ者しか耐えられないんだな?」
「そういうことだ」
「……そんな」
この赤鬼になった男は、自らバケモノになったってことなんだ……。
そんなのって……。
僕の心境を察したのか、赤鬼は僕に声をかけてくる。
「人の欲望ってのは恐ろしいもんでな。それをかなえるためには自分がバケモノになろうが、他人を殺すことになろうが関係ないんだよ」
「……」
「薬を飲んでこの姿に生まれ変わったときは喜びの絶頂にいたぜ。でもな、時が経つごとにその喜びも薄れていった」
「……」
「そうなるとさ、もっともっと強くなりたいと思っちまう。自分で自分を抑えることなんかできなかった。そのなれの果てがこれだ」
「……俺たちに出会ってよかったな」
「……ああ。まったくだ」
ポオオオオオ
優しい音を立てながら、赤鬼の身体のところどころが消えていく。
「お前たちのように強い奴に会えてよかった。本当の強さの片鱗を見た気がするよ」
「……ねえ、君の名前は?」
「桃太郎だ」
「……鬼なのに桃太郎なんだな」
「ははっ、皮肉なことにな」
「あははっ。……ねえ桃太郎、生まれ変わったら今度こそ正々堂々戦おう!」
「……そうだな。今度こそお前らをコテンパンにしてやるよ」
「だってさ、リュウ」
「……ふんっ、俺だって負けるつもりはねえぜ?」
ポオオオオオッ
消えていく速度が増していく。
そろそろお別れのようだ。
「じゃあ、またね、桃太郎」
「……またな」
「おう!」
そこにはもう鬼の姿はなかった。
フッ
満開の笑顔を咲かせながら白い光となり、桃太郎は消えてしまった。
少しの間、僕たちに静寂が訪れる。それはそれは静かで、まるで暗い海の底にいるような感じだった。
けれど、決して冷たくなんかない。
僕とリュウとの間に、自由で爽やかな一筋の風が吹き抜ける。
「……戻ろうか、みんなのもとに」
「……そうだな。シオンも様子も心配だ」
「よし、急ごう!」
「……ああ!」
僕とリュウは、イッちゃんやナツミちゃん、シオンやハナちゃんのもとへと走り出す。
夜空に輝く一番星が、まぶしいくらいに光を放っていた。




