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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第3部【ロストライフの入り口編】 - 第6章 影分身の亡骸を求めて
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影の本心(2)


 まばゆい光の世界から生まれたのは二人の面影を持った一人の戦士だった。

 ウシオに似たセンター分けの黒髪にリュウのように鋭い目つき。顔の左側につけられた三日月型のお面からは蒼い瞳が輝いている。

 シオン(闇)戦に誕生した合体戦士リュウシオだ。


「ふう……。この感覚は慣れねぇな」


 自分がウシオなのかリュウなのかわからないもやもやした感覚。例えるならカラオケ誰かとデュエットしたときのような感覚に似ているかもしれない。

 コキコキと首を鳴らして身体をほぐす。


「前に合体したときは十秒ももたなかったからな。エネルギー消費に注意ってわけか」


 軽く本気を出してからたったの十秒で合体が解けてしまった。即興で作ったとはいえ使い勝手の悪い術だ。

 今回は違う。ウシオが一から丁寧に練り直した仕様になっている。

 少なくとも五分は持つに違いない。


「まあ五分ありゃ何でもできるけどさ」


 この世界の王ですら凌駕してしまうほどの力だ。

 彼は負ける気がしなかった。実際、負けることはないだろう。

 さて、ここからが本題である。

 なぜウシオが脈絡もなくリュウと合体したのか。


「影分身の術」


 ミソはこれだ。

 彼は現れた三人の自分にげっそりしながらもタンタンと飛び跳ねステップする。


「オレは最強の力を手に入れなくちゃならない」


 ウシオは自分の弱さに嫌気がさしていた。同時に限界すら感じていた。

 このままでは何も変わらない。誰かを失っていく一方だと。

 閃いたのがこれだった。


「いくぜ?」

「「「おうよ」」」


 瞬間、風が切れ、大地が悲鳴をあげた。

 本体VS三人の分身の激闘が始まる。

 リュウシオの力は絶大的だった。

 だからこそウシオはその世界を身体に覚えさせることで次なるステージへと強制的にひきあげようと考えたのだ。

 空気が震える。透明な大砲が宙でぶつかるような衝撃派が何度も生じた。

 悪魔的な熱戦に王宮が怯えているようにも思える。


「いいねぇ! 段々感覚がつかめてきた……ッ‼」

 

 ウシオの意思が強く現れた台詞は直後の衝撃にかき消された。

 リュウシオはただひたすら笑っていた。

 三体分の影分身は本体の三分の一の力すらもたない。そこらの獣人に比べれば数十倍の強さを誇るのだけれど。お得意の連撃を三体同時に浴びせてやる。


「もっとオレを熱くさせてくれッ! もっと高みのステージに昇りたいんだからよッ‼」


 防戦一方の分身たちに構うことなく絶え間ない連打を加える。

 手首のあたりから微かな光がこぼれだした。


「あーあ、もう時間切れか」


 合体してからまだ一分も経っていない。

 もう少し術を練り直す必要がありそうだ。


「んじゃあ最後に特大のやつ与えてやるか」


 長ったらしい印を組み終え、左右四十五度に両手を突き出した。


双竜そうりゅうの術ッ‼」



 ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼



 各腕に氷と炎の尾が走ったかと思えば二人を象徴する炎竜と氷竜が出現した。

 二対の竜は交わることなく三体の標的へと牙を向ける。


「これで終わりだな」


 鼓膜をつんざく咆哮が轟く。

 少しあとの静けさが浮き彫りになった。


「……ふう」


 リュウシオの身体を光が包み――――中から二人の青年が現れる。


「……おいウシオ! テメエいきなり合体なんかしやがってッ‼」

「ごめんごめん。なんかリュウと合体したくなっちゃって……」

「……変な言い回しするなよおいっ! 誰かに聞かれてたりでもすれば……」


 ガサっ


「なななな、なにも見てないんだからね~っ⁉」


 神さまのいたずらか、ばったり出くわした赤髪メイドのアールが真っ赤な顔してどこかへ去っていった。


「……最悪だよチクショウッ!」

「まあまあ」

「……なんでお前は平然としてんだよ⁉」

「この世の中、不思議なことでいっぱいだから」


 ぶぇっくしゅんっ。

 筋骨隆々シャバーニがどこかでくしゃみした。


「……ったく……あとで誤解といとけよ」

「はいはーい」


 てきとーな返事に疑問を抱きつつも王宮の中へと引き返すリュウ。これ以上ウシオを責めたてても時間の無駄だと判断したからだ。

 しかし、事件は起こった。


 シュババババッ


 複数のクナイがリュウめがけて飛んできたのだ。

 炎剣を生み出し即座に斬り捨てる。


「…………」

 

 思い当たる人物がいるとすればただ一人だ。


「……ウシオ。いったいどういうつもりだ?」


 リュウのこめかみに青筋が浮かぶ。

 この場にいるのはリュウとウシオだけだ。

 散らばったクナイ。疑いようの余地もない忍者であるウシオの仕業だった。


「え? ボク何もしてないよ」

「……んだと?」


 本当に思い当たる節がないといった様子だ。

 嘘をついているようには見えない。


「……じゃあ誰が」


 疑問が疑問を呼び、眉をひそめる。

 その時だった。

 木陰から影が飛び出しクナイを投げつけてきたのだ。

 その影は三体分ある。


「……うそだろおい」


 クナイをはじきながら影の正体を知ってリュウは愕然とした。


「ったく全然当たんねえじゃねえか」

「下手くそだよ二号。僕に任せて」

「ここは俺に任せろって三号」


 そこにいるのは倒したはずのリュウシオ×3だった。

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