ミッションインポッシブル(3)
月の光が黒タイツのリュウとナツミ、そして人の形をしたカマキリのバケモノを照らす。
「……ナツミ、例の作戦でいくぞ」
「オッケ~!」
前回の戦闘後に彼らが練った作戦を実行しようと、決めたフォーメーションをとる。
リュウが前でナツミは後方に。ちょうどリュウがナツミを守るような形だ。
「キルルルルル」
「……来るぞ!」
「りょーかい!」
カマキリが襲いかかる。
腕についている大きな鎌をふりかざす。
キンッ
対して、リュウは双剣を取り出し攻撃をはじく。
その反動で隙ができたカマキリの懐に、リュウが踏み込み斬りつける。
しかし、カマキリはその細身の体を生かし攻撃をかわす。
続けてもう二、三発双剣を振るがすべてかわされてしまった。
「キルルルルッ」
「……ちっ」
あざ笑われた気がしたリュウは思わず舌打ちしてしまう。
その一方で、ナツミが目をつむり集中している姿を、カマキリははっきりと見据えた。何も仕掛けてこない彼女を格好の的だと判断したのか、カマキリが襲いかかる。
「キルルルルッ」
「……まずいな」
「キルッ!」
「……瞬風の術!」
それを阻止しようと風を身に付けたリュウが対応する。
キンッ
「……キル」
「……ふん、そう簡単にさせねえよ」
忌々しいとばかりに鳴き声を発し、何歩か後ろに下がり、リュウと距離をとった。
「……この程度なら俺だけでも何とかできるな」
以前戦った時と比べものにならないほどレベルアップしたリュウにとって、この程度の相手なら容易に倒せる。
「……どうした? そんなもんか、カマ野郎」
「……」
「……なんだ? 急に黙り込みやがって」
「……」
ピシッ
動きの止まっていたカマキリの甲殻が、ところどころひび割れていく。
ピシピシッ
「……!?」
小さなひびがだんだん全体に広がっていく。
カマキリの厚い装甲がポロポロ剥がれ落ちていった。
それはまるで、ウシオやリュウの必殺技である強化忍術のようだ。
「キュルルルル……」
「……っ。変身しやがった」
「キュルッ!」
「……ッ!?」
変身したカマキリが動き出す。
ヒュンヒュンッ
ガキンッ
ギリギリだった。
カマキリの移動速度は変身前とは比べ物にならない。
何とか対応できたのが奇跡的だ。
「……これはマジでやばいな」
リュウに焦りが生まれ始める。
一歩距離をとったカマキリが再びナツミに視線を向ける。それに気づいたリュウは真っ先に彼女のもとへと走り出す。
その直後、マキリは目にもとまらぬ速さで動き出した。
「……まずい、先に行かれる……ッ!!」
カマキリがリュウの背中を追いこし、無防備なナツミのもとにたどり着いてしまった。
鋭い切っ先がナツミに向けられる。
「……くっそ! 間に合えよ……ッ! 炎陣の術!!」
ゴオオオ
鎌が振りかざされる直前、ナツミとカマキリの間に炎の壁をつくり、何とか攻撃を防ぐことに成功した。
「……はあ、はあ。何とか間に合ったか」
「キュル……」
「……これでなんとか時間がかせげるな」
「……」
「……どうした? 炎が怖くて近づけないか?」
「キュルルルッ!!」
「……うそ、だろ!?」
動きを止めていたカマキリがその鋭い鎌で、彼らを遮っていた炎の壁を切り裂いた。
「キュルルル」
「……やるじゃねえか」
これでもう彼らとカマキリを隔てるものは無くなってしまった。
リュウは覚悟を決める。
「……力は極力温存しておきたかったが……。仕方ないようだな」
「キュルルル」
「……はっ、見てろ。お前なんか瞬殺だ」
「……」
「……」
「……ッ! 炎鎧の術――――」
「リュウ! おまたせ!」
「……ッ!」
術を発動しようとしたその時、今まで目をつむり静止していたナツミが目を開いた。
リュウは待ちわびたといわんばかりの表情になる。
「……ようやくかよ。よし、じゃあいくぞナツミ!」
「任せて!」
囚人と警察官のコンビが、動き出す。
「……炎追の術! さあ、終わりだカマ野郎」
「キュル!!」
炎を双剣にまとわせ、カマキリに向かって踏み込みを入れる。
ギンッギンッギンッ
二、三発攻撃するが、やはり変身したカマキリに防がれてしまう。
「……くっ!」
「キュルル!!」
「……しまった……ッ!」
ズバッ
一瞬の隙をつかれたリュウは、ついに切り裂かれてしまった。
彼の身体が真っ二つに分かれ、地面に転がる。
その姿を見てカマキリは高笑いした。
「キュルルルルルっ!」
ガッシャンッ
その瞬間、カマキリの首に一つの錠がかけられた。
わずらわしいとばかりにその錠を破壊しようとするが、ぴくりとも動かない。
いや、動かせなかった。
ナツミのほうに視線を向ける。そこにはやってやったといわんばかりの、ペロッと舌を出したナツミがいた。
さらにその隣には真っ二つになったはずのリュウの姿がある。
彼は口の端を少しつり上げた。
「……いい顔してるじゃねえかカマ野郎。その錠はナツミの逸品だ。相当な集中力で作られているから、お前は指一本動かせねえぜ? まあ、お前に指なんてねえけどな」
「……ッ」
「……ああ、どうして俺が生きているかって? はっ、簡単な話だ。そこで真っ二つになってる俺を見てみろよ」
そういわれて、眼球を動かし倒れているそれを視界に入れる。
ボンッ
その直後、、倒れていた何かは煙と共に消えてしまった。
「……そういうことだ。どっかの誰かさんが言ってたぜ? 忍者ってのは、相手を油断させたところで背中から刺すもんだってな」
「まっ、リュウは忍者じゃないけどね~」
「……うっせ!」
「……」
「……そんなわけだ。俺達の勝ちだ。あばよ」
「……ッ!?」
ズバッ
カマキリがリュウをそうしたように、彼は真っ二つに切り裂き勝利をおさめたのだった。
「やったね、リュウ! いえ~い!」
「……ふ、ふんっ」
パチッ
勝利のハイタッチが交わされた。
*
目の前には僕の宿敵である赤鬼が立ちはだかっている。けれど僕にはイッちゃん、ライオネル、そしてイーグルがいる。
こんなにも心強いことはないだろう。
「おいおい、四対一とは卑怯じゃないかねえ?」
「そんなこと言ってる場合じゃないんでな。一刻も早くお前から情報を引き出さなくちゃいけねえ」
「ヒュウ、こわいこわい」
赤鬼は口笛を鳴らしながらも、セリフとは裏腹に余裕なそぶりを見せる。
いったいどこからそんな自信があふれてくるのだろうか。
「ところで知ってるか? この世界には突然変異を起こしてバケモノになっちまう奴らがいるらしいぜ」
「「……」」
「なんでもそいつらは他のとは違って圧倒的な力を持ってるらしい。代償として、膨大なエネルギーを必要とするらしいがな」
こいつはライオネルやイーグルのことを馬鹿にしているのだろうか。
いや、疑う余地もなくそうだろう。
許せないッ!!
赤鬼はにやにやと笑いながら話を続ける。
「風の噂では、そいつらは一度の変身の後、もう一段階変身できるらしいぜ?」
「……なんだと?」
「こんなふうに……なッ!!」
ミシミシミシ
不気味な音をたてながら、赤鬼の姿が変化してく。二本の角が伸び始め、引き締まった肉体はさらに洗練される。加えて、背中か二本の青い腕が生え、青いもう一つの顔が出来上がる。
その姿はまるで阿修羅のようだった。
変化の様子を見ていたライオネルとイーグルは絶句している。
「これが第二形態ってやつだ。ずいぶん驚いてるようだな。じゃあおまけにもう一つ、驚かせてやるよ」
そう言うと、ミシミシミシと嫌な音をたて、彼の背中からでていた青い顔と腕がとびだしてくる。それに伴い、青い胴体、足が生まれた。
そうして進化後の赤鬼と同じ姿をした青鬼が出現する。
「これで一対二の勝負ができるな」
狂気を増したバケモノが襲いくる。




