大地の狼(1)
同時に出現した獣人の対処にあたるため、僕とリュウは二手になって行動することにした。
爆発音が近い。
ヘビの獣人の力で大きな熱がぶつかり合うのも感じている。
現場までもう一息だ。
「『忍者』の力を所持しておろうものが息絶え絶えじゃな」
「ガイア! ついてきちゃったのっ!?」
ひょこりと顔を出した褐色少女に驚きを隠せない。
どうでもいいけど浴衣でよくこの速度についてこれるね!
「なんじゃなんじゃ。ワシがついてきたら不満かの?」
「不満というかなんというか、危ないからさ」
「大地の神の力をなめるなよ?」
そうか。
つい忘れがちになるけど、こんなか細い少女でも大地の神さまなんだ。もし僕が倒れちゃっても、ガイアがなんとかしてくれるとかもありえる……?
「まぁ、森の外では半分以下の力しか出せないんじゃが」
「なんとなく察してましたよちくしょう……ッ!!」
「てへぺろ☆」
なんだこのお茶目な神さまは。
ほんとに神さまなのかと疑ってしまう。
ドンンッッ!!!
鼓膜がやぶれんばかりの轟音が空気を裂いた。
どうやらもう目前のようだ。
「いいガイア? 危なくなったらすぐに逃げるんだよ」
「ワシを子ども扱いしておってからに。見た目で判断するもんじゃないぞ」
「いいから。それじゃあ行ってくるね」
何かのお店らしき物陰から飛び出し、二体の獣人の前へと飛び出る。
「ゴボッ」
ビチャビチャ……
「え?」
広がった視界に収まっていたのは、
――――オオカミの獣人の腕がワニらしき獣人の腹部を貫いている光景だった。
「どうして獣人同士が争って……?」
今になって思い返してみると爆発音や衝撃があったのはおかしい。一般人を襲っただけじゃそんなことにはならないはずだ。
答えは明白。
この二体の獣人が殺し合っていたから。
「……フンっ。失せろ」
とげとげしい口調。
完全な獣人態であるにも関わらず、その発音はいかにも人間らしいものだった。
オオカミの獣人が腕をひっこぬくとワニの獣人は力なく地面に吸い込まれる。地に転がることなく光の粒となって空中に散っていく。
「あ……え……っ?」
「……誰だ?」
「っ!」
暗闇でも光るオオカミの鋭い眼光にあてられ、脊髄反射で構えてしまった。
ピキピキッ
僕の頬に無意識の亀裂が走る。
「……テメエもまさか獣人か?」
「あっ、いやそれはっ」
とっさに否定しようとするが、確かにぼくは獣人なので上手く答え返すことが出来ない。
「めんどくせえ……とりあえず殺すか」
「べ、別に戦うつもりは……っ!」
相手の自我を認めた僕は懸命になって交渉を試みたけど、どうにも聞く耳持たずらしい。戦って少し体力を削いでから説得に入るしかない。
そう結論にいたった、そのとき。
「ぐすっ……うぐっ……お父さん…………」
「…………?」
僕らのそばで一人の少年が泣きじゃくっていた。
そこは先ほど、ワニの獣人が消えた場所。
お父さんって……。
この子まさか……さっきの獣人の子供?
「失せろガキ。死にてえのか」
「ちょっと待ってッ! もしかすると……っ」
あらぬ物言いにさすがの僕も頭に血がのぼる。
――――目を疑いたくなる出来事は突然として訪れた。
「うぐっ……ひぐっ……オトウ……サンッ」
メリメリメリ……っ
骨から肉を無理やり引っぺがすような胸糞悪い音が生じた。
少年の甲高い声が悪魔のものへと成りかわっていく。
「まさか……っ!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
小柄な少年の輪郭は息を呑む間に消失し、
「メエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
三本の角を持つ、ヒツジの獣人へと変貌を遂げた。




