ラウンド2(3)
お面をかぶった燃えさかるリュウの能力を数え上げてみよう。
1.相手の能力を真似できる。(今の場合、忍術を使える)
2.本気を出せば、もとの能力以上の力を発揮できる。
おまけにすり抜けられる。
「…………え? こんなん無理だよ?」
いくら真似できない能力があるにしろ、もはやラスボスに近い性能だ。
逃げ出したい。逃げ出したいよママ。穴が入ったらいれた……入りたいよ。隠れたい。……あ、なんか久しぶりかも。
「……なに笑ってんだよ」
不審がったリュウがいぶかしむ。
「いやあね、なんだかこの世界に来た時のことを思い出して」
「……ここに来た時?」
「うん。この世界にきて間もなくリュウに会ったんだよね」
女の子に食べられて、イッちゃんに出会って、リコちゃんがこの世界のことを教えてくれて。
初めての獣人がライオネルたちで。
そこでリュウたちが助けてくれて。
シオン、ハナちゃんに出会ったんだっけ。
「振り返ってみれば途方もない道を歩み続けてきたんだ」
僕たちはいつでも崖っぷちだった。
それでもあきらめることなく、こうしてここにいる。
想像もできないほどに強くなった。
……一応言っておくけど最終回とかじゃないからね?
「だから今回も、きっと勝機はあるはずだ……っ!」
「……急に何かと思えば……」
額に手をあて、やれやれとため息をつくリュウ。
だが、その口元は笑っている。
「……だが。いつものお前らしくなったじゃねえか……!!」
「いくよリュウッ!! 君にだけは負けられないっ!!」
「……上等だっ! ひねりつぶしてやるッ!!」
闘いの幕が再びあがる。
僕は獣人化を解いて氷の鎧を身に纏った。何度も脱着するには結構なエネルギーを消耗するがなりふりかまっていられない。
氷竜鎧の術の副作用に『異常なまでに心が静まる』という効果がある。闘志をそがれるのは痛いが、今回はそれを逆手に取る。
相手を攻略する算段をたてるにはちょうどいい。
「……おらよッ!」
「ッ…………」
リュウが炎に包まれた腕を突き出した。
それを手ではじき、逆に氷の腕で突き返してやる。
スルッ
僕の手はリュウの身体をすり抜けた。
「……お返しだ」
「ぐッ!?」
かかとの炎を爆発させ回転の推進力でまわし蹴りを浴びせられた。
なんとか意識をたもち距離をおく。
「…………」
回し蹴りをくらったとき僕の手はいまだリュウの身体をすり抜けていた。でも、リュウの足は僕に直撃している。
もしすり抜けが全身に適応されているならリュウからの攻撃も当たらないはずだ。
つまり、カウンターをとれば僕の攻撃がリュウに当たるわけだ。
「……目の前に集中しなくちゃあすぐに片が付いちまうぞ」
ゴバッ!!
炎の爆発で加速したリュウに懐をとられてしまった。あごを狙った一撃が放たれる。
鎧に覆われていない急所に狙いをしぼりこんだのか。
だけどそれが命取りになったね。
狙われたらまずい箇所くらい、僕だって把握している!!
リュウの攻撃を先読みできた僕は彼を上回る速度で動き出した。
突き上げられたリュウの腕の関節を折る形で。
「…………ッ!!!」
身の危険をいち早く察知したリュウが関節の炎を爆発させ位置をずらす。僕のカウンターこそ決まらなかったが、あごを狙った一撃を防ぐことに成功した。
「どうしたのリュウ。焦ってるようにみえるけど」
「……チッ。相変わらず食えねえ野郎だ」
反撃すら決まらなかったものの、これで確信した。
相手の攻撃の直前ならこちらからもダメージを与えることが出来る。腕を折ろうとして避けられたのがその証拠だ。
それにリュウの息があがっている。奪盗で身体を透けさせるにはやはり莫大なエネルギーを消費しているらしい。
勝機はある。
「突破口は見つかったぞ、リュウ。反撃の狼煙をあげさせてもらう」
「……はんッ。反撃の糸口が見つかったところで、状況が変わったわけじゃねえよ」
…………
静まり返る大地。
風は口を閉じ、木の葉一つ動かない。
…………
雲に隠れていた太陽がちらりと顔をのぞかせる。
一筋の斜光が、暗い森の中に走り込んだ。
ザッッッ!!!!
静寂を切り裂き駆けだす。
――――直後、
「もう我慢ならんっ!! ワシの寝床で暴れておるのは誰じゃあいっ!!!」
「「っっ!!!?」」
ドォォオオオオオオンンンッッ!!!
派手な轟音をたて、僕らの中間地点に何者かが降り注いだ。
せき込むほどに猛烈な砂嵐が舞い踊る。
「ご、ごほごほっ! だ、誰っ!?」
「……まさか革命軍かっ!?」
あっけにとられた僕たちだったが、即座に体勢を立て直した。
身構えたその先に闖入者の姿が浮かび上がる。
「尋ねたいのはワシのほうじゃ。こんな昼間っからワシを起こしよってからに」
「…………へ?」
現れたのは小柄な少女だった。
褐色の肌に黄金色の瞳。見た目には似合わないほど艶やかな黒髪。鮮血ともはたまた大地の底力とも思わせる紅い色の浴衣を見事に着こなしている。
彼女は少女らしからぬ落ち着いた声音で、
「このガイア様の眠りを妨げたのは誰じゃあ……っ!!」
そう怒声を放って、僕たちを見比べた。
あっけにとられて何も言えない僕とリュウ。
「…………」
一方で、唐突に現れた珍入者も目を見張っていた。
特に僕を見つめて。
だんまりな時間がどれくらい続いただろうか。
ガイアと名乗った浴衣の少女が口を開く。
「ウホッ、いい男」
「「…………」」
…………本当に何も言えなかった。




