ミッションインポッシブル(1)
「「……はっ!?」」
「おっ、二人とも目が覚めたか?」
目を覚ますと、シオンが僕たちをのぞき込んでいるのに気がついた。
辺りはすでに真っ暗で、夜空には綺麗な星が輝いていた。
「「……勝負は!?」」
僕とリュウが同時に起き上がる。
「ん? 引き分けだよ」
「「……」」
「まあそんなににらみ合うなよ。お互いにグッと成長できただろ?」
「「……まあ」」
僕とリュウが唇をつきだし、不機嫌そうな表情を作る。
「よし、もう真っ暗だし急いで帰ろう! 動けるか?」
「うん、大丈夫。」
「……ああ。」
「よし、じゃあ帰ろうか!」
そうしてシオンを先頭に僕たちは帰路を歩き出したのだった。
道の途中、不意にリュウが話しかけてくる。
「……次は俺が勝つからな」
それを聞いた僕はとびっきりの笑顔で答えてやった。
「いいや、僕が勝つもんね!」
リュウは静かに、ふっ、と笑った。
*
家に着く手前で、ふと思い出した。
「あっ、リコちゃんはもう出かけちゃったのかな?」
「あー、もう行っちまったんじゃない?」
「……だよねえ」
ここ最近、修行に打ち込む一方でリコちゃんのことについても考えていた。妹のように思っていたリコちゃんが本当に裏切り者だろうか。
そうだとしても、面と向かって話せば分かってくれるんじゃないだろうか。
今夜あたりに直接話そうと思っていたのだが、あいにく帰宅が遅くなってしまった。
まだ家にいるといいんだけど。
「ただいまー!」
「あっ、おかえりなさいっ」
シオンが元気よく挨拶をかわし、すぐそこにいたイッちゃんが返事を返してくれた。それから、奥の部屋にいたハナちゃんがこちらに顔を出す。
「おかえりなさいコーさま!」
「ただいま」
「おっ、ハナじゃん。ただいま!」
「あらシオンおかえり。それよりコーさま、お疲れ様ですわ!」
「ええ~?」
露骨な接し方の違いにシオンがショックを受ける。
僕たちにとっては毎度おなじみの光景だ。毎度シオンとハナちゃんは不思議な関係だなと思う。
おっと、それよりリコちゃんがまだいるか聞かなきゃ。
「ねえハナちゃん、リコちゃんはもう出かけちゃったかな?」
「はい、さきほど出て行かれましたよ?」
「遅かったかあ……。」
思った通り、すでに出かけてしまっていた。
また明日にでも話そう。
そう思ったときだった。
「「「ッ!?」」」
ここにいる3人の男全員が何かを感じ取った。
玄関に二つの気配を感じる。しかも、敵意むき出しだ。
「……シオンは俺と共に玄関に近づけ。ウシオは一階にいる全員の保護を」
「分かった」
「了解」
僕たちは機敏な動きで陣形をとった。
突然一か所に集められた女の子たちは驚いている。
「コーくん、これはいったいっ?」
「玄関に二つの気配を感じる。おそらく敵かな」
「えっ!?」
「……おいウシオ、そろそろいくぞ」
「オーケー。こっちはもう大丈夫」
リュウが僕に体勢を整えたか尋ねてきた。
おそらく、こちらから先手をとるつもりだろう。
「……いくぞ。せーの!」
バタン
勢いよくドアを開き、相手に先制を仕掛ける。
「おいおい、ちょっと待て!」
「……お前は、ライオネル」
「おう、待たせたな!」
謎の来訪者はライオネル達だった。
*
調査から戻ったライオネルたちを迎え入れ部屋に入った僕たちは、前回と同じように円を作って座っていた。ちなみに、今回もイーグルは外に出ている。
「どうしてあんなに敵意むき出しだったのさ?」
まずは僕が率直に思った疑問をぶつける。
するとライオネルは、
「ああ、お前たちがどのくらい成長したのか確かめたくなってな。いやあ、見違えるほど強くなったな!」
と、答えた。
「わ、わかるの?」
「おう、あの対応はなかなかのもんだぜ?」
「えへへへ」
「……お前の指示じゃないがな」
「うるさいな、もう!」
素直に褒められて照れていた僕にリュウが茶々を入れる。
「それで今回の調査はそうでしたか?」
ハナちゃんが本題を切り出してくれた。
ライオネルが真剣な表情になり、僕たちは身構える。
「実はだな、今回の調査であの子供が敵だとは判明しなかった」
「……ほ、ほんとに?」
僕は内心大喜びした。
まだリコちゃんが敵だとは断定できないのだ。
しかし、とライオネルは続ける。
「問題なのは奴が毎晩会っている人物だ」
「え?リコちゃんは誰かと会っているの?」
何か用事があるとは聞いていたが、誰かと会っているということは初耳だ。
「その人物は彼女の司令官、いわば上官だ」
「どうしてそんな人物が問題なのさ?」
僕が疑問に持つ。
ただの司令官なら何も問題はないだろう。
しかしながら、ライオネルはゆっくりと一息入れてから重い口を開く。
「そいつが今、この世界に変革を起こそうとしているからだ」
「か、革命ですかっ?」
「それっていいことじゃないの? この世界をもっとよくするんでしょ?」
ナツミちゃんが不思議そうに質問する。
ライオネルは首を横にふった。
「いや、それはこの世界を壊すことに等しい。ただ自己理想を実現しようとしているに過ぎない」
「……だが、俺たちには関係ない話じゃないか?」
リュウが冷たく言い放った。
その場にいる冒険者全員が黙り込む。
「そ、それは冷たすぎないかな?」
「……いや、そんなことはない。実際、この世界にとって俺たちは食物にすぎないんだからな」
「あ……」
そう、リュウの言う通りこの世界は僕たちを栄養源として認識している。
例えるなら、僕たちはお米などの食べ物で、この世界は人間だ。例えではなく、実際にそうなのだが。
僕たちにとってこの世界は敵であり、一刻も早く逃げ出さなければならない。
つまり、この世界の事件に関わる必要はいっさいなく、ひたすら出口を目指せばいいのだ。
しかし、今の僕たちは素直にそうしようと思えなかった。
リコちゃんのことがあるからだ。
今までずっと一緒に仲よくしてきたのに、このままでは前に進めない。
再び静寂が訪れた。
そこで、ライオネルが雰囲気を破る。
「確かにそうかもしれないな。でも、まったく関係ないというわけではないんだぞ?」
「……どういうことだ?」
「あのバスガイド、もしかしたら何も知らない普通の案内人なのかもしれない。つまり、革命に関わりのない、ただの被害者かもしれないということだ」
「「「え!?」」」
その場にいる全員が驚きを隠せずにいた。
「それってただ利用されてるってこと?」
「ああ、そういうことになるな」
「そんなのいけませんわ!」
「なら、お前たちはどうしたい?」
「「そんなの決まってる!助けに行くんだ!」」
僕とシオンは間髪入れずにそう答えた。
他のみんなも、うんうん、と頷いている。
たとえ僕たちの命を奪う世界を助けることになろうとも、大切な仲間を見捨てるわけにはいかない。
そう、相手が僕たちをどう思っていようとも、助けたいのだ。
「やっぱりお前らだとそう答えると思った!さすがは俺の見込んだ奴らだぜ!」
ライオネルは気分が良さそうに、がははっ、と高らかに笑う。
「……分かった。俺たちも協力することにしよう」
リュウはしぶしぶ了承したかのようにふるまっているが、内心はリコちゃんのことを気にかけていたらしい。まったく、素直じゃないやつだなあ。
「それで具体的には何をするんだ?」
「そうですわ。教えていただけますか?」
「そうだな……。あいつはいつ頃出て行ったんだ?」
「まだそんなに時間は経っていないですっ」
「そうか……。」
ライオネルはあごに手をあて、目をつむり考え込み始めた。
それにしてもライオネルはリコちゃんのことを名前で呼ばないんだね。
前々からは気になっていたが、何かあるのだろうか。
う~む。
僕が頭を悩ませている間に、ライオネルは案を思いついたらしく、目を見開いた。
「どうするの?」
ナツミちゃんが問いかける。
ライオネルは胸を張り、堂々と宣言した。
「ストーキングだ」
*
「ストーキングだ」
「……っ!」
「どうしたのリュウ?」
「……いや、なんでもない」
僕はリュウがストーキングという言葉に反応したのを見逃さなかった。




