洗練されゆく精神と技(4)
「いくぞ」
「……ッ!?」
ヒュンッ
氷竜の鎧を纏った僕は、中世の騎士のような鎧を着ていた時とは比べほどにならないスピードを出していた。
鎧をまといながら高速で動かれることほど恐ろしいことはないだろう。
ガキンッ
氷の剣でリュウに攻撃を仕掛けた。
彼はなんとか耐えたが、僕は次々と攻撃した。
ガガガガッ
「……くっ、反撃したいが隙がねえ!」
「それがこの術の恐ろしいところさ。攻撃を受けることなく相手を斬り刻む」
術の影響で異常に冷静になっている僕は、隙を与えることなく攻撃を続ける。
ガガガズバッガガガズバッ
リュウはついに受け止めきれなくなり、剣先がかするようになってきた。
ガガズバズバッガズバッ
「……ぐあ……っ! これは本当にまずい!」
「……」
リュウの体勢が崩れてゆき、あともう一撃というときだった。
スカッ
僕の攻撃が宙を斬る。
ここにきて違和感を覚えた。
「……?」
「……ッ!? 今だ!」
彼は一瞬の隙を利用し、攻撃の雨から脱出した。
「……はあ、はあ、危なかった。なんで一瞬動きが止まったんだ?」
「……」
僕の体は、真冬に指が冷えてうまく動かないように、動きが鈍くなっていた。この違和感の正体を僕は知っている。
この術の負荷が大きすぎてコントロールできない。一言でいえば、レベルが足りないのだ。僕の実力はこの術を使いこなせるほどのものではない。
一か八かの賭けで使ってみたが、賭けには負けたようだった。
しかし、決着はまだついていない。
僕は今できることを精一杯するだけだ。
「いくぞリュウ!」
「……ふん、なんだか知らんが不調らしいな? やるなら今だな!」
猛スピードでお互いにぶつかり合う。
ガキイイイインッ
氷の剣と、風と炎を纏う双剣が交わった。
「おりゃあ!」
「……おっと。そら!」
「くっ! やあ!」
「……ぐっ!」
相互に攻防を繰り返し、闘いはデッドヒートする。
それに伴い、コントロールがより効かなくなってくる。
身体が重い。
少しでも気を抜いてしまえば負けてしまう。
最強の術を使っていながら絶体絶命だった。
しかし、最大の危機に陥っているのは、なにもこのことだけが原因ではないだろう。
何よりも目の前にいる好敵手が強いからだ。
だからこそ。
こいつにだけはなんとしてでも勝利をもぎ取りたい。
僕の心が燃え上がる。
「うおおおおおおおおおおお!!」
「…ッ! 急に速度が上がっただと!?」
ズバズバズバッ
「……ぐあ……っ!!」
「!!」
身体が思うように動く、いやそれ以上だ。
この術を掌握した。
そんな感覚を覚えた。
リュウに負けたくないという熱い想いが、僕を次のステージへと導いた。
身体が、頭が、僕の思い通りに動く。
目の前で倒れているリュウが視界に入る。
僕は心に思ったありのままのことを口にした。
「僕は限界を乗り越えたぞ、リュウ! でも、お前もそんなもんじゃないだろ!」
それは相手を挑発というより、鼓舞するかのように聞こえた。
溢れ出す気持ちを続けて声にする。
「さあ、立てよ! 君との勝負はまだ終わってない!」
倒れ込んでいる彼は唇をぐっと噛みしめる。
かと思うと、にっと笑い立ち上がる。
「……お前に言われなくても分かってるよ」
彼が僕の目を見据える。
瞳を閉じ、何かを考えた後、目を開き、動きを見せる。
「炎陣の術!」
ゴオオオオオオ
彼の周りが炎に包まれる。
続けて術を発動する。
「炎鎧の術!!」
ゴオオオオオオ
リュウの囚人服に炎がまとわりつく。
中世の騎士の格好とよく似ていた。
「まさか炎竜の術を使うの?」
「……ああ、そんでお前のように竜の鎧を纏ってみせる。」
「さすがに無理でしょ? 天才の僕だって相当練習したんだからさ」
少し、上から目線で言ってやった。
頭にきたのか、こめかみに血管を浮かべている。
「……ぜってえやってやる。炎竜の術!!!」
ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアッ
炎の竜が現れ、リュウを飲み込んでいく。
「どーせ、囚人服を焼かれて素っ裸になって出てくるのがオチだって」
僕が呆れた表情でため息をつく。
炎竜に動きがあった。
そのまま消えるのかと思っていたが、僕の方向に向かってきた。
……あれ、これってまずくない!?
ゴオオオオオオアアアアアアアアアアア
僕の目の前で炎の竜が大きな口を開ける。
「やばい!!? 爆水氷撃の術!!」
ピキピキバッシャアアアアアアアアアアン
氷に近い大量の水が壁として立ちふさがる。
氷竜の鎧を身にまとっていることにより、術の威力が増していた。
なんとか危機を回避し、リュウにクレームを入れる。
「ちょっとリュウ、今のは反則でしょ! 僕と同じように炎竜も消えるも……ん……だと」
僕の口調がペースを乱していく。
「……え?」
あまりの衝撃にあいた口が塞がらない。
僕の目の前には、僕と同じ竜のような姿をした、炎の鎧を身に纏っているリュウが立っていた。
彼はにやあっとして、僕に言う。
「……案外、いけたわ」
「ちくしょおおおおおおおおおおお!!」
腹の底から叫び声をあげた。
僕が血反吐を吐いてまで修行して手に入れた術を、こいつはものの数分で完成させやがった。
「許さないぞ、リュウ!!」
「……とりあえず涙ふけよ、お前」
これは涙なんかじゃないやい!
しかしながら、余裕そうな発言とは裏腹に彼の表情は苦しそうだった。
「……残念ながら長くは保たないらしいな」
やはりこのくらいの強大な術ともなると、忍者ではない彼にとってすごく負荷がかかるものなのだろう。
「……次の一撃で決めさせてもらうぜ!!」
「ああ、来い!!」
僕とリュウが同時に印を組み、必殺技とも呼べる最強の術を発動する。
「絶氷零竜の術!!」「……爆炎双竜の術!!」
ゴアアアアアアアアアアアアアアピキピキッ!!!
ゴアアアアアアアアアアアアアアゴオオオッ!!!
二体の、相反する性質を持つ竜が現れる。
氷の体を持つ竜の周りには氷結ができており、すべてのものから熱を奪う絶対零度の存在だった。
一方で、二つの首を持つ炎の竜の周りにはフレアが発生しており、まるで太陽のようだった。
二体の竜がにらみ合う。
そして――――
「「いけええええええええええええええええええッ!!!」」
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
二人の戦士の想いを乗せ、衝突した。




