人はそれを混浴と呼ぶ(3)
「リュウ……?」
自分が裸体をさらしていることさえ忘れ、アミちゃんはリュウをじっと見つめ、そうこぼした。
「……ん? 誰か今俺を呼ん――――」
何も身構えることなく、リュウはアミちゃんのほうへと振り返り、
「――――だかぁッ!!?」
彼女の裸を目にして脊髄反射で視線をそらした。顔はもう真っ赤である。彼は相変わらずピュアピュアのうぶのようだ。
「もう、リュウってば。そんなに驚くこともないでしょ」
「……うるせえウシオ! ふつう異性の裸なんて見たら驚くだろうが!!」
怒ってるのやら混乱してるのやら。
まあ、興奮してるのには違いないね。
「リュウ……なんだよね?」
再び名前を呼ばれたリュウは出来るだけ視界に入らないように目を横に動かす。
「……俺はリュウだよ。けど、お前はいったい誰だ?」
「…………私のこと、わからないの?」
「……悪いが見覚えはない」
「そんな……っ」
死んだ親の形見を失くしたかのような絶望の色を浮かべるアミちゃん。
……ん? 待って。
なんだか、状況がつかめてきたぞ。
僕が初めてアミちゃんにあった時、彼女は誰かを探していると言っていた。イッちゃんとの内緒話ではその人が想い人だったとも。
今のアミちゃんの台詞を察するに…………彼女の探し人はリュウだった……?
それって……!!
「あぁーっ!!!」
「……っ!? いきなり叫ぶな。風呂場だと余計に響く」
全部。全部思い出した!!
アミちゃんはリュウを探していて! 過去に何があったのかは知らないけど、彼女はずっとリュウに想いを寄せていたんだ……!!
「っ(バッ!!)」
見ればアミちゃんの瞳に涙のつぶが浮かび始めている。いつも元気溌剌で弱いところなんて見せなかったアミちゃんがだ!
これはまずいぜベイベェッ!!
リュウの隣にダイブし水しぶきのあがる中で彼の肩を揺らしに揺らした。
「知ってるよねリュウ!? 君は彼女のことを知ってるはずだ!!」
「……ゆゆゆさぶるなななな!! だから俺は知らないと!!」
なんで知らないんだよこのバカ!!
あっ、もしかして髪型が違うから? 僕もさっき、ツインテールじゃないからアミちゃんのことが一瞬わからなかったんだ。
「思い出して!! ほらツインテールの女の子!!」
「……ツインテールはアールだろう? でもあいつは赤髪だし、そいつは黒髪じゃねえか」
「だぁーかぁーらぁー!!」
このバカはどうしてこんなに物分かりが悪いんだ!! 二日くらい同じ王宮で暮らしてたんだから分かるでしょ!!
どうしたものか、どうしたものかと頭を抱える。
そうこうしていると、
「……もしかして……まだあの子牛の女の子に夢中なの……?」
こんなことをアミちゃんが呟いた。
子牛の女の子? そんな子なんていたかな?
腕を組んで首をかしげる。
――――が、リュウは違った。
血相を変えて、湯船から立ち上がる。
「……お前どうしてそのことを知ってるんだよ!!?」
「だって、私はずっと見てたから。あの柵の外から……」
……ん? なんだか話についていけないぞ。
けど、二人は完全に意思疎通してるみたいだし。
考え込んでいたリュウが顔をあげ、決定打のようにこう言う。
「……まさかお前が――――お前があの子羊だってのか?」
「…………うん。そうだよ」
…………。
静まる空気。
ぴちょんと水のはねる音だけが生きている。
「…………」
女の子は誰でも子羊じゃないか、何を言っているのさリュウ。
なんて言いたかったが、それを言うと殺される気がしたので喉の奥にひっこめた。




