そして主人公たちは交差する(4)
空気を焼いた微かに甘く焦げた匂い。
ジリジリと肌を照りつける熱気。
ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!
リュウの放つ炎竜が身動きの取れないシオンに襲いかかる。
しかし、シオンの口からもれたのは恐怖ではなく笑みだった。
「こんなもの、飲み込んでくれる……!」
向かい来る炎竜に対して手のひらをかざす。
するとそこから、幾百もの影の手が出現した。餌に群がるハイエナのように、影の手が炎竜の全身を取り巻いていく。見る間もなく炎竜の姿かたちは跡形もなく消えてしまった。
「オレ様を食らおうとは不抜けた考えだな」
「……チッ! いったいどういう理屈してやがる……ッ!!」
傍から見ていた僕にはなんとなくわかった。
あれは『破壊』の力を応用したに違いない。シオンとは別人の『シオン』はどうも『破壊』の特性を付加できるらしい。『影を操る力』に『破壊を付加できる力』。それに加えて『忍者』の能力まで持っているとはチートに近い。
トドメとばかりに発動した炎竜の術を打ち破られ、次なる手に出るでもないリュウは重力のままに急降下した。
シオンはそれを見逃さない。
「…………」
シオンも同様に落下していたが地上で生み出した影の花をクッション代わりにして衝撃を吸収する。
安定した体勢を得たところでリュウに対する攻撃へとシフトし始めた。人差し指でリュウを突きさすと影の花びらが分裂し、処刑道具のような鋭い槍へと変形する。
「舞え」
これを合図に何千本もの影の槍がリュウに向かって発射される。
「……そんなもの、焼き尽くしてやるッ」
対するリュウは印を組み腕を突き出した。
影を焼却するべく、手のひらから膨大な炎の塊が生まれる。さながら夜の太陽を連想させるようなサイズ。
だが、
ピシシシシシシシシシシシシ……ッ!!!
放たれた炎は、まるで透明なガラスが割れるように、影の槍に砕かれていった。
これが『破壊』の力。物理法則のへったくれもない、非常。
「――――――――」
この性質を把握しきれていないリュウは唖然とした。すぐ目の前まで影の槍が迫っているというに次のモーションに移行できていない。
とはいっても、リュウにこの『破壊』の力を止める能力はないだろう。
だからこそ、僕の出番だ。
地上から二人の様子を眺めていた僕は脚のバネを爆発させリュウと影の槍をはばむように横入りする。
「……ウシオっ!?」
「僕に任せて」
パキリ……ッ
腕の一部を獣人化させ、白いウロコを一枚ちぎる。それを影のほうへと投げつけ、術を発動した。
「獣・爪甲羅の術!!」
ブ――――――ォッ!!
術の加護を受け投げつけたウロコが巨大化する。それは雨を受け流す傘のように影の槍を脇へと流していった。
そのまま僕たちは地上へと足をつける。
「へェ。やっぱりお前の『盾』は少しばかりやるんだなァ」
「まったく、お互い様だよ……」
ニヤリと耳まで口をさけるシオン。
背筋に嫌なモノを感じながらも、僕は汗ばんだ手のひらを握り直した。




