そして主人公たちは交差する(2)
人格を取り除くとはどういうことだろう?
ちょっと見ない間に頭おかしくなったのかな?
「……お前、今うっとうしいこと考えてるだろ?」
「そんなことないよ」
うん、頭がおかしいのはもともとだ。
「……絶対考えてやがる……」
はぁっとため息をつくリュウ。
にしても、人格を取り除くことに関しては理解に至らない。
僕がその旨を伝えると、そうかとリュウは少し驚いた。
「……お前、『蒼炎の奪盗』を見てないんだな」
「じゃっじ……めんと?」
すごい当て字を使ってる気がした。ネーミングセンスが気になるところだ。
リュウによると、『蒼炎の奪盗』とは相手の何かを奪う技らしい。何があったのか分からないが、それで獣人のもととなるウイルスを切除できたそうだ。
リュウの狙いは、それを応用してシオンを演じる新たな人格を切除するということ。
何気に次元的な法則を超えている。
「それじゃあ、シオンはもとのシオンに戻れるんだね?」
「……保証はできねえ。ただ、この状況を変えることは約束してやる」
なんと頼もしい顔なのだろう。
知らぬ間に大人の男にまた一つ成長している。
そりゃシャバーニが惚れるわけだ。惚れられても掘られるなよ、と心の中で願っておく。
……。
「……くくっ」
「……何笑ってんだよ?」
「いいや、別にっ!」
冗談を言えるほどには心に余裕ができているようだ。
仲間がいるだけで、これほど違うものなんだ。
「よし、みんなでリュウを援護しよう! 必ず成功させ————」
そのとき――――言葉を遮るように爆発音が大気に波動を起こした。
音源は少し離れた、僕たちから見て左右で戦っているイッちゃんやアミちゃんたちだ。どうにも、戦況がよくないらしい。
「……ウシオ。あいつら、まずいんじゃないか?」
「だね。どうすれば……」
「…………おいどんが助太刀に参るでごわす」
ずいっと前に歩み出て、僕たちに申告したのはシャバーニだ。
そうしてももらえると助かるかもしれない。リュウの『蒼炎の奪盗』のサポートは僕一人で十分そうだから。
そうなると……。
「ハナちゃん。ハナちゃんにはイッちゃんたちを助けに行ってもらいたいんだけど……」
「……わ、わたくしですか」
どうにも歯切れの悪い反応。
シオンのことを何度も一瞥しては目を伏せている。
僕は容易に彼女の気持ちをくみ取ることができた。きっとシオンのことが心配でたまらないのだろう。
だけど……。
僕はハナちゃんの頭に手を添えて、優しく口にする。
「大丈夫。僕たちに任せて」
リュウに視線をやる。
「……あぁ。俺たちに任せろ」
僕には及ばないけど、安心するような笑みを浮かべるリュウ。
「二人とも…………」
少しの間、ハナちゃんは言い淀んでいた。
しかし、髪にあるアゲハ蝶のかんざしに触れ、その表情が変わった。
口元が固く結ばれ、目じりはきっと吊り上がっている。
いつもの、余裕のある、その上品かつ覇気に満ちた笑顔で、
「では……シオンのことを頼みます。イネたちのことは任せてください!」
「うん、任せて」
「……それに、任せたぜ」
こくりと首を縦に振る。
ハナちゃんはイッちゃんとギンのほうへ。
シャバーニはアミちゃん率いる少年少女コンビのもとへと駆けつける。
これでまもなく、二つの戦いに終止符が打たれるだろう。
残るは、僕たちだけだ。
「なんだか、久しぶりだね」
「……三人そろうと修行するみたいだな」
「オレ様はテメエらのことなんて知らねェんだよ」
僕、リュウ、シオン。
三人を結ぶと三角形ができる位置でけん制し合う。
…………。
ぴたりと音が消えた。
毛先を遊ぶ程度の小さな風が訪れ。
木枯らしが舞う。
それは、ヒラヒラヒラと蛇行して地に向かう。
「「「…………」」」
――――葉が、地に触れた。
「いくよ、リュウっ!」
「……頼むぜ、ウシオ!」
「オレ様がすべてを無に還してやるよ……ッ!!」




