変わりゆくつながりの糸(2)
イッちゃんと話し終えたあと、僕は一人外に出ていた。
「……よし、始めるか!」
外に出てきた理由、それは昨日の戦闘に原因だ。
みんなが戦っている最中、僕一人だけが何の役にも立つことができなかった。それどころか、僕のせいでイッちゃんが命の危機にさらされてしまったのだ。
もう二度と繰り返したくない。
だから僕は修行を始めることにした。
「まずは使える忍術を増やそうか」
リコちゃんいわく、精神エネルギーを使って術を発動するらしい。
だったら、精神エネルギーを高めれば強力な術を使えるかもしれない。
「ぬううう」
集中力を高める。
そして、ここだと思ったそのときに術を発動した。
「豪火の術ッ!!」
ゴオオオオオオオ
僕の手のひらから噴き出る炎が空気を焼き尽くす。
鬼の男と戦ったときほど威力はなかったが、十分に戦力となりそうだった。
「よし、僕もなんだかんだでレベルアップしているみたいだ!」
ググッと拳を握りしめ手の感触を確かめる。
「さて、他にもいろいろ確かめて戦闘力をあげようか!」
みんなの前に立って戦えるよう、僕は強くなるための努力を続けた。
*
「はあ、はあ。もうダメ、疲れた!」
半日ほど修行に打ち込んだ僕は、体力の限界を迎えていた。
けど、疲れと引き換えに相当の手ごたえを感じている。
「半日とはいえすごく強くなった気がする。これは明日もやろう!」
やりきった喜びで胸をいっぱいにしながら家へと戻った。
「さて、お風呂でリフレッシュしますか!」
僕たちのような存在は汗をかいたりしないのだが精神エネルギーを消費する。そのためお風呂に入ったり寝たりして回復しなければならないのだ。
疲れ切った僕は脱衣所の扉の前に着いた。
「ふんふんふ~ん♪」
今からお風呂に入れるという喜びで、気楽に口笛を吹きながらドアを開けた。
「っ!?」
そこに誰かがいた。
先にお風呂に入っていたらしい人物が僕の突然の出現に驚く。
一糸まとわぬ姿を見られた人物。
「きゃあああああああ!?」
悲鳴を上げたのはその人物ではなく、僕のほうだった。
「なに騒いでるんだよお前……」
お風呂に入っていた人物、シオンは叫んでいる僕に対して言う。
「いやいやいや! そこはふつう女の子がいるところでしょ!?」
「へっ、お前にそんなラッキースケベはねえよ!」
シオンは僕に毒づいてその場を去っていた。
精神的に大ダメージを受けた僕はめそめそとべそをかきながらお湯に浸かった。悲しい気持ちなんて吹っ飛ぶくらい気持ちがいい。
「……ふう~、いいお湯だべ~」
おっさんみたいという自覚はある。
「ふんふふふん~ふ~ん、ふんふん♪」
自分で考案した鼻歌を気楽に歌う。
やっぱりお風呂は最高だね~。
僕がお風呂を満喫している、そのとき。
脱衣所で誰かが服を脱いでいる音が聞こえてきた。
うそ、誰か入ってくる!?
為すすべもなくあわあわとしていると、お風呂場のドアが開かれた。
「……っ!?」
お風呂場に入ってきた人物が僕を見て驚く。
「きゃああああああああああああ!?」
悲鳴を上げたのはまたもや僕のほうだった。
「なんでお前なんだよリュウ! だからふつうは女の子が入ってくるんだよ!!」
「……なんで泣きそうな顔してんだよ」
「うるさいばか!」
「……なんで俺、逆切れされてんの!?」
僕に幸せが訪れるのはまだまだ先らしい。
*
「それでは、本日もくじ引きを行っていきますわ~!」
「「「おお~!」」」
昨日はあんなにも反対意見があったのに今日はみんな肯定的だった。
きっといろんな人としゃべってみるのもいいなと思えてきたのだろう。
「ではあたしはこれで失礼します!」
リコちゃんがいつものように外に出かける。
「さて、ではくじをみなさんつかんでくださいな!」
ハナちゃんがいつものように割りばしを差し出し、みんながつかむ。
せーのっと、ハナちゃんが合図をかけたそのとき。
ドンドンドン!!
「「「!?」」」
と、玄関の扉が叩かれた。
「リ、リコちゃんかなっ? 忘れ物をしたとかっ?」
「だったら普通に入ってくるんじゃないかな?」
「いや、敵かもしれないよ?」
「敵が律儀にノックなんてするのかな?」
ざわざわとした空気が生まれる。
「とにかく身構えて損はないですわ」
「……ああ、全員戦闘態勢をとれ!」
ハナちゃんとリュウがみんなに指示を出す。
この二人は、本当に頼りになる。
「……俺がドアを開ける。目を離すなよ?」
そう僕たちに告げ、リュウが扉へと近づく。
「……いくぞ?」
バッと、ドアを開けた。
そこにいたのは、
「おいおい、派手な歓迎だな!」
「……」
調べ物をしていたライオネルとイーグルだった。
*
「ってなわけで、待たせたな!」
「ううん、お疲れさま!」
僕たちは玄関でライオネルを迎え家の中へと入り、居間で円を作って座っていた。
「ところでイーグルは入ってこないの?」
「ああ、どうしてかお前たちのそばにはいられないんだと」
僕たちが嫌いってことかな。
それとも僕たちと一緒にいたらお腹が減っちゃうとか。
うーん、どっちの理由も僕たちにとっては嫌だなあ。
「……なあ、本題に入ってくれないか?」
リュウがライオネルを促す。
「ああ。その前にあのバスガイドはどこにいる?見当たらないんだが」
「ああ、それなら今はいないよ。毎晩どこかに行っちゃうんだ」
シオンが答える。
「そうか、なら丁度いい。お前たちに話しておきたいことがある」
ライオネルが真面目な顔つきに変わった。
「何の話?」
僕が尋ねる。
するとライオネルは低い声で答えた。
「バスガイド――――あの金髪の子供は裏切り者だ」




