言葉なき王(2)
氷の鎧に亀裂が入った。
「くそ……さすがに力を使い過ぎちゃったか……」
音を耳にした途端、全身から力が抜け落ちていった。竜の鎧がみるみるうちに収縮していく。
や、やばい……ッ。
そう危機感は覚えるものの、どうにかすることはできなかった。
竜をモチーフとした氷の鎧はあっという間に弱体化してしまう。
竜へと昇華する進化の一歩手前。中世欧州の騎士のような、飾り気のない一般的な鎧の形へと変化し終える。
「身体が重い……ッ」
竜の力を失ってしまった僕はそんな感想を抱いた。
丸っこい鎧が重たいわけではない。竜の力で覚醒していた身体とのギャップのせいで、そう感じるだけなのだ。
「能力だけでいけるか……?」
僕の能力は『忍者』×『暗殺者』だ。そもそも能力的にスピードは群を抜いて速い。イッちゃんやギンたちと比べれば雲泥の差があると思う。
だけど、今の僕は違った。
竜の力を使い過ぎた反動。溜まりにたまった疲労。エネルギー消費が激しい術の乱用。
これらが重なりに重なって本来のスペックを出し切ることができない。
「どうしよう……これは本当に困ったぞ」
そうこう嘆いたところで現実が変わるわけではない。
「こんlfじkえ3iいああ」
シオンの背中から噴出している影の集合体、もしくはそのように見える黒翼のような何かが、まるで呼吸する生き物のように動き出す。
左右双方向からの同時攻撃。
「……ッ!!」
僕は夢中になって後ろにステップを踏んでいた。
気づかぬうちに歯を食いしばり柄を握る力が強くなる。
キンッキンッキン――ッ!
氷の剣を横一直線に大きく振りかぶり左右の翼をはじいた。
次々と刺客が襲いかかってくる。
キンキンキンキンキキキッ!!
何度も何度も振りかぶってははじいた。
だけど、だんだんと腕の力が弱まり、振りかぶる速度が遅くなっていく。
ガキン……ッ!!
「嘘でしょ……ッ!?」
決定打となったのは氷の剣があまりの衝撃の連続に砕けてしまったことだった。武器を失った僕は何も出来ぬまま黒翼に薙ぎ払われてしまう。
その衝撃がひびという形になって氷の鎧が粉々に砕けた。
空中へと飛ばされた僕は負けを認めた。
――――今の僕の実力じゃ到底シオンには敵わない、と。
この世界の王を相手にしているのだから当然だと思う。
体力が無尽蔵のように思われる。それに加え、圧倒的な攻撃と防御。
もっと、力がなければならない。そう反省した。
だからこそ、次は出し惜しみしない。
たとえ、僕が死んでしまったとしても。
パキ――――ッ
おはよう、僕。
おはよう、ボク。




