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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第1部【王の目覚め編】 - 第3章 それが日常と化していく
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変わりゆくつながりの糸(1)

 僕が目を覚ますと、視界の先には木製の天井が広がっていた。

 身体が動かない。

 つい昨日もこんなことがありましたよね、二日連続で金縛りですか……。


「ついてないなあ。あれっ、喋れるじゃん」


 昨晩のときは口すら動かせなかったのだが、今回の金縛りはそうでもなかったらしい。

 というよりは、なんだか金縛りではない感じがした。


「一体どうなってるんだろ?」


 僕は目を動かして周囲を見回してみた。

 横ではイッちゃんがかわいらしい寝息をたてている。

 僕の手足は頑丈そうな植物にロックされていた。

 僕の腹部にはハナちゃんが乗っかっていた。

 ふむ……。

 何もおかしいところはないね……。

 って、んなわけあるか!

 明らかにおかしい状況を前に、僕はキレイなノリツッコミをしてしまった。


「どうしてハナちゃんがここにいるの!?」


 驚きを隠せない僕。


「ふふふ、世間でいう夜這いですわコーさま!」


 対して、ハナちゃんは平静を保っているように思われた。


「はあ、はあ。コーさま、わたくしと熱い夜を過ごしましょう!」


 いや、まったく平静なんかじゃなかった。


「ダメだよハナちゃん! 僕たちはまだそういう関係じゃ……っ!」

「いいじゃありませんか! わたくしはもうこのあふれだす気持ちを抑えることができませんわ!」


 ハナちゃんが作ったと思われる植物にロックされた僕は、必死の抵抗もむなしいものだった。


「さあコーさま、キスから始まる恋を始めましょう!」


 ハナちゃんが目を閉じ、唇を3の字のようにつきだしながら、顔を近づけてくる。

 なんともかわいらしく、色っぽい顔だった。


「……っ」


 僕は思わず息をのんだ。

 してみたい。

 心のどこかから、そんな声が聞こえた気がした。

 僕とハナちゃんの顔が残り数センチの距離までに近づいた。

 顔に熱が帯びるのを感じる。

 鼻先と鼻先が触れそうになる。


「……うう」


 情けないことに、僕は顔に血が上りすぎ気を失ってしまった。



 *



「さあコーさま、キスから始まる恋を始めましょう!」


 ハナはまぶたを閉じ、唇をつきだしながら、ウシオの顔に自身の顔を近づける。

 ハナの頬が少し紅潮している一方で、ウシオの顔は熱中症の患者並みに真っ赤になっていた。

 顔と顔が近づき、あともう少しというところで。


「……うう」


 根性なしのウシオは気絶してしまった。

 ウシオの異変を感じたハナは閉じていたまぶたをあげた。


「あら、気を失われてしまいましたわ」


 ハナは一旦顔を離した。

 彼女の息遣いは荒い。


「ふう、ふう。気絶したいのはわたくしのほうですわ……」


 ウシオの前では積極的な態度をとっていたハナだったが、内心ではとても緊張していたのだった。


「……ふう。さてどうしましょうか」


 息を整えたハナは、気絶したウシオを眺めながらつぶやいた。

 つんつんと、気を失っている彼の頬をつつく。


「ふふ、かわいい寝顔ですわね」


 ハナは幸せな気持ちで満たされた。


「……今日はかわいい寝顔を見られたことですし退散するとしましょうか。おやすみなさい、コーさま」


 寝顔に満足したハナは、ウシオにウインクをかわしてその場を去ったのだった。


「あっ、シオンをほったらかしにしたままでしたわ」


 彼女はルームメイトの彼に悪いことをしたなと、少しだけ、ほんの少しだけ思ったのだった。




 *




 朝日の光が僕の顔を照らし、目が覚めた。


「あれ、朝? ……って、ハナちゃんは!?」


 昨晩、僕はハナちゃんに夜這いされた。

 そして情けないことに、いつの間にか気を失っていた。

 僕はあたりを見回した。

 しかし、ハナちゃんの姿はそこにない。

 イッちゃんの姿もなかった。


「みんな居間にいるのかな?」


 そう思った僕はパジャマから忍者服に変身し、居間へと向かった。

 居間に着くと、すでに全員が集まっていた。


「おはようございますわ、コーさま!」

「お、おはよう」


 何もなかったかのような態度だったので、思わず面食らってしまった。

 ……まあ、気まずくなるよりはいいんだけど……。

 僕は気絶した後のことが気になっていたので、誰にも聞かれぬようにハナちゃんの耳元で尋ねてみた。


「……ハナちゃん、あの後どうしたの?」

「ふふ、何もありませんでしたわよ?」

「ほ、ほんとに?」


 ハナちゃんは幸せそうな笑顔を浮かべながら答えた。

 なんだかわからなかったが、ハナちゃんが幸せそうだったので気にしないことにする。

 そこで僕たちを見つめているイッちゃんに気がついた。

 なんだか元気がないだ。


「おはようイッちゃん、どうしたの? 元気がないように見えるけど」

「おはようございます。いえ、なんでもないですよっ?」


 イッちゃんがぎこちない笑顔を浮かべる。


「ほ、ほんとに?」

「……」


 イッちゃんが黙り込む。


「……」

「……あの」


 少しして、イッちゃんが口を開いた。


「あの、ハナちゃんのことはどう思っていますか?」

「どういうこと?」


 突然のことに僕は戸惑ってしまった。

 どうといわれても……。


「うーん、積極的な女の子じゃない?」

「積極的ですか?」

「うん、だってみんなの前に立ってまとめてくれたりするでしょ? それにいつだって明るいし!」


 昨日なんて夜這いされたからね。

 行動力においてはこの中で一番だろう。


「……コーくんは、積極的な人のほうが好きですか?」

「うん、そうかもしれないね!」


 イッちゃんが少し考え込む。

 そして、少しひきしめた表情をして言う。


「分かりましたっ! ありがとうございますっ!」

「うん、頑張って!」


 どうしてかは分からないが、変わろうとしているイッちゃんに僕はエールを送った。




 *




 昨夜のこと。



「うう、さすがにひどいよ……」


 部屋に一人きりのシオンは悲しみの色に染まっていた。

 大好きなハナと同じ部屋になれて喜んでいたのもつかの間、あっという間に拘束されてしまった。

 その上、彼女はどこかに行くものだから悲しいことこの上ない。


「はあ、一人ぼっちか。昔もこんな感じだった気がするなあ」


 彼は昔、ずっとひとりぼっちだった。

 彼にこの記憶はなかったが、本能が覚えていた。


「……ハナ、帰ってきてくれよ」


 泣きそうな声を出してしまった。

 その時だった。

 部屋の扉が開き誰かが帰ってきた。


「ただいまですわ」

「ハナ……っ!」


 どこかに行っていた彼の想い人だった。


「……良かった。今晩はもう帰ってこないのかと思ってたよ」

「最初はそのつもりでしたけれど気が変わりましたの」


 そう言いながら自分の布団に潜り込む彼女。


「……もう寝るの?」

「ええ。おやすみなさい」


 彼女はあっけなくそう言って黙り込んでしまった。


「そう……だよね。お疲れさま」

「……」


 彼はどこかさみしさを覚えたが、平気だった。

 たとえ誰かが自分を見ていてくれなくても誰もそばにいないよりはマシだ、そう思っていたからだ。

 彼はいつものことだと自分に言い聞かせていた。

 しかし、深い闇の沈黙を破られた。


「……なんだか眠れませんわ。シオン、何かお話ししましょう」

「……っ!」


 それは彼が彼女に出会ったときに聞いた声色と同じだった。


「うん、話そう! オレもそうしたい!」


 彼に笑顔が戻った。


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