獅子の名を受け継ぎし鷹(1)
夢を見ているようだった。
大空をかけ、点々と灯を放つ現代世界を旅しているような。どこからか漂うシチューの香りが、そこにあった。
幻。
その一文字を理解したのは目の前の勝敗が決してからのことだ。
「あ、がァ……ッ。テメェ……いったいどれほどの力を」
動かなくなった左腕を右手で押さえ息を荒らげているフリーダの姿があった。勢いよく燃えさかっていたマグマのごとき炎はもうどこにもない。
傷だらけのフリーダがイーグルをにらみつけている。
「さぁ? ボクはただ軽く体操したくらいのつもりだったんだけどね」
「……ざけやがって……ッ!」
何事もなかったかのようなイーグルの態度にフリーダはこらえきれなくなった。なけなしの力を振り絞って身体に炎を纏う。
背中と足の裏の爆発させ急激なエネルギーを得る。
それを一点に集中させた移動術は文字通り目にもとまらぬ速さであった。
リュウはもちろんのこと、『忍者』×『暗殺者』のウシオでさえ追いつけないだろう。
――――ただし、イーグルは次元が違った。
「なに? ボクと追いかけっこでもしたいの?」
残像を伴うほどのスピードでさえイーグルの足下に及ばない。
気が付けば彼はフリーダの背後に回っていた。イーグルの立っていた場所にフリーダが猛スピードで距離を詰めたはずなのに。その後ろにイーグルがいる。
この間、わずかコンマ数秒。
同じ人間が同時に存在しているとの錯覚を、つい覚えてしまう。
だが、それだけではない。
「あ、そういえば――――よくもライオネルのことをバカにしてくれたよね?」
ドッッッッッ!!!!
「うぷ……ッ!?」
グリフォンの幻獣となった剛腕による、一撃。
イーグルの拳がフリーダの腹部にめり込む。
「でも、これでちゃらにしてあげるよ」
――――ッ――――――――ッ
――――ヒュン――――ッ!!!
めり込んでいた拳を振り切ると、凄まじい力がフリーダを数十メートル先にまで吹き飛ばした。何本もの木を折ってはようやくその勢いが収まる。
「…………」
フリーダを取り巻いていた炎が力なく消滅していく。
白目をむいた彼の意識は失われていた。
「……すげぇ……」
最強と謳われたシャバーニでさえも倒したフリーダを赤子の手をひねるように蹴散らしたイーグル。
驚異的なスピード。
殺人的なパワー。
原子的でありながら、頂点に立つ存在。
「……これが『幻獣』の力か」
圧倒的な力を見せつけられてリュウは思わず武者震いした。




