ようやっと隠れ家(2)
「では、第二回くじ引き部屋割り大会を開催いたしますわ~!」
「「「「……えっ?」」」」
ハナちゃんの突然の宣言に焦りだす僕たち。
部屋割りにいい思い出を持たない僕たちは、あまり乗り気にはなれなかった。
「……?」
唯一、イッちゃんだけは気にしていないのだった。
「ハナ~、普通に部屋決めしたらいいんじゃな~い?」
ナツミちゃんが提案する。
しかし、ハナちゃんは譲らない。
「ダメです! 普通に決めたら男女で分かれちゃうじゃないですか!」
「それでいいじゃ~ん。私たちでガールズトークしようよ~」
ハナちゃんがおされ、ナツミちゃんが優勢になる。
いい流れだ、このままいけば平穏な睡眠を得ることができる!
「それもすごく魅力的ではありますが……。それだと好きな人にアタックできないではありませんか!」
「っ」
ナツミちゃんの動きが止まる。
「す、好きな人に……?」
「そうです!自分から行動を起こさないままでは何も変わりません!」
雷が落ちたような衝撃を受けるナツミちゃん。
「じ、自分から……」
ちらっとリュウのほうに目を向けた。
それからしばらく考え込んだ後、ナツミちゃんが口を開いた。
「やっぱりくじ引きで部屋を決めよっか!」
「「「えええ!?」」」
男どもが悲鳴を上げる。
「では多数決をとりますわ!」
「あの! あたしは今晩も出かけますので参加できないです」
リコちゃんが申し訳なさそうに言う。
「仕方ありませんわ、お仕事ですもの」
「ありがとうございます!」
リコちゃんがハナちゃんの気遣いにお礼を言う。
「では、多数決をとります! くじ引きに賛成の方は挙手を!」
女の子たちがみんな手をあげる。
一方で男たちは黙り込んだままだ。
「では殿方は反対というわけですね?」
「うん」
男性陣がみんな頷く。
「困りましたわ~」
そう呟きながら、何か考え込むハナちゃん。
そして何か思いついたようで、ハナちゃんはシオンを指さしこう言った。
「シオン、わたくしと寝ることができる可能性もありましてよ!」
「ッ!?」
シオンに衝撃が走り、うつむきだした。
まずい、こいつ僕たちを裏切ろうとしている!
ここは説得してなんとか引き留めるしかない。
「ねえシオン、僕たちを裏切るの!?僕たちは親友じゃないか!」
「……そうだぜシオン、唯一信頼できるのはお前だけなんだからな!」
珍しいことにリュウまで必死になっている。
シオンの肩が震えている。
きっと心の中で葛藤しているんだ。
「頼むよシオン!」
「……ああ、俺からも頼む!」
僕たちはシオンの肩を掴んだ。
そうして彼は顔を上げる。
満面の笑みだった。
「「……シオンっ!」」
僕たちの絆が勝ったんだ。
男同士の友情に乾杯!
「オレは女の子たちに賛成かな!」
シオンは笑顔のまま僕たちを裏切りやがった。
「……お前、己の欲に屈しやがったな!」
リュウが裏切り者を罵倒する。
しかし、シオンも負けていない。
「仕方ないじゃないか、オレだって男なんだ! 好きな人にアタックしないで何が男だ!」
「……っ」
リュウの動きが止まる。
それからナツミちゃんのほうをちらっと見た。
あれ、なんかデジャヴを感じるんですけど……。
「なあリュウ、お前も変わってみないか?」
「……」
リュウが黙り込む。
これはまずい!
「ねえ、リュウ、僕たちこそ本物の親友だよね! 僕たちの絆はダイヤモンドより硬いよね!」
「……は? そんなものねえよバカ」
この野郎……ッ!!
リュウは僕のことなんか微塵も気にせずに考え込む。
そしてついに。
「……シオンがそこまで言うなら俺もくじ引きにしてやるよ」
最後の希望が消え去った。
ダメだ、ここで信じられるのは自分自身だけなんだ。
僕の心は邪悪に染まった。
「……悪いな、ウシオ」
「オレたちは男だから」
「貴様らあああああああああ!!」
眼から血の涙が噴き出す勢いで叫び声をあげた。
「それではくじ引きで決定ですわ!」
「くうううううう!!」
こうなったら仕方ない。
腹をくくって勝負に出るしかないだろう。
ペアに男子がきたら僕の勝ちだ。
その時はそいつをコケにして笑ってやろう。
邪悪に染まった僕の心の中で誓いを立てた。
「ではくじをつかんでください!」
ハナちゃんが番号の書かれた割りばしを差し出し、各自がつかみ取る。
「それでは行きますわ! せ~の!」
「「「えい!」」」
ハナちゃんの合図で全員が一斉に割りばしを抜き取る。
みんなが自分の番号を確認する。
「わたしは1ですっ!」「私は2!」「わたくしは3ですわ!」
まずは女の子たちが発表した。
「あっ、1だ!」「……俺は2」「オレは3だ!」
一方で男性陣のほうも宣言した。
「「「ッ!!?」」」
その場に電撃が走り抜けた。
それぞれがシンキングタイムに入る。
ナンバー1ペア
(イッちゃんとかあ……温泉でのこと、ちゃんともう一度謝っとこうかな)
(コーくんとっ……ハナちゃんに負けないように、わたし頑張りますっ!)
ナンバー2ペア
(……ナツミとペアか……しゃあねえ男らしくいくか!)
(ほんとにリュウとなっちゃったよ~、どうしよ~!)
ナンバー3ペア
(やった、ついにハナと寝られるんだ! いい夢見れそう!)
(まさかシオンと当たるなんて……! 夜にこっそりコーさまの部屋に忍び込みましょう!)
各々がバラバラの想いを胸に抱く。
そしてハナちゃんが指揮を執ってくれた。
「で、では各部屋に移りましょうか!」
「「「……はい」」」
みんな緊張した声色だった。
それぞれがそれぞれの部屋へと向かい出す。
「ではあたしはこれで失礼します!」
その一方で、リコちゃんは何も見えない闇の向こうへと消えていったのだった。




