未来を見据えるために(4)
人間としての骨格を失い、四足歩行に切り替えるイーグル。彼の翼から生えるひし形の宝石が薄暗く光る月明かりに反射する。
「……これは……『幻獣』の獣人……?」
「『幻獣』の獣人? そりゃいったいどういうことだよ!?」
リュウの言葉にひどく衝撃を受けるライオネル。
しかし、リュウが答えることはなかった。彼の見つめる先を追ってライオネルも目をやる。
イーグルの変身は完全に終わっていた。
鋭いくちばしをした、もはや怪獣とも呼べる姿。
「……おかしい」
その姿を観察してリュウは眉をひそめた。
「何がおかしいってんだよ。何もかもがデタラメじゃねえか!」
「……そういうことじゃない」
「じゃあ何が……ッ」
「……特徴が見られないんだよ。『幻獣』のな……」
そう。リュウがいうように、今のイーグルにモデルとする生物が見当たらないのだ。
『幻獣』とは、空想上の生き物のことを指す。例として『幻獣』の力を持ったルンが挙げられる。
彼は『堕天使』という空想上の生き物をモデルとした特性を持つ。大きな黒い羽、圧倒的な力が大きな特徴だ。
「……だけど、イーグルにはそれが見当たらない」
「『幻獣』じゃなくて、獣人の第二フェイズじゃないのか?」
なるほど、とリュウは納得した。
獣人には第一フェイズ、第二フェイズが存在する。
第一フェイズはライオネルたちが普段使っているような、獣の力を発揮する段階だ。一方で第二フェイズは、さらにその力を解放し、より獣に近い状態になる。
だとすれば、イーグルのこの状態は『幻獣』ではなく獣人の第二フェイズということだろうか。
しかし、その考えはすぐに否定されることになる。
「でもよ、第二フェイズも人の形は保たれるもんだぜ?」
「……そういえば、桃太郎のときもそうだったか」
かつて第二フェイズとなった赤鬼と戦ったことがある。彼の場合は、筋骨がさらに盛り上がり、赤鬼と青鬼に分裂したはずだ。人型は保たれていた。
したがって、導き出される答えは一つだ。
「……『幻獣』の力が上手く発揮されていない?」
言い換えれば、失敗作。
イーグルに施されたであろう実験は失敗に終わった。
「おいリュウ! なんだかやばい一撃がきそうだぞ!?」
「……なッ!」
深く考え込んだせいで油断してしまった。
「キシャアァァァァァッッ!!」
体長五メートルにも及ぶ怪獣となったイーグルが、その大きな宝石の翼を羽ばたかせた。
猛スピードで突っ込んでくる。
「……ッ!!」
肝が冷えた。
こんな猛スピードでぶつかられれば真っ二つに切り裂かれてしまう。
そして、判断の遅れたリュウは足を動かすことができなかった。
「……クソがッ!!」
一撃必殺の翼が、飛んでくる。