未来を見据えるために(2)
「……ルンを『獣人』から、もとの人間に戻す」
リュウの信じられない発言に、
「ルンくんを元に戻せるのっ!?」
ナツミは声を荒らげて驚いた。
感情の起伏に乏しいビイでさえ、わなわな震えている。
「……机上の空論かもしれねえけどな」
現在、『獣人』を治す方法は見つかっていない。
ただ王宮の地下の実験室を目の当たりにしてから、リュウはずっと考えていた。
もしも、人工的に獣人を生み出しているのだとしたら。獣人から人間に戻る方法があるんじゃないか、と。不可逆的なものではない。
その一縷の可能性に思考を巡らせていたのだ。
リュウは言う。
「……ライオネルたち獣人になったことを嘆いてただろ? 思ってたんだよ。どうにかしてアイツらをもとの人間に戻してやれないかって」
「その過程で『獣人』を治す方法を見つけたってこと?」
「……いや、”治す”というよりは”取り除く”のほうが近いのかもな」
獣人はある種の感染病である。
そのウイルスのようなものを取り除けば彼らの苦悩は消えてなくなる。
「……それで、どうするの?」
気になってしょうがないビイが急かしてくる。
「……実戦で見せてやるよ」
「……いまゆって!」
ポカポカ小さな拳でパンチしてくる。
ナツミからの苦笑いを受けリュウはしぶしぶ教えてやった。
「……いいか。獣人はウイルス性の病気に近い」
「……うん」
「……だから、そのウイルスさえ取り除けばいいんだ」
「……うにゅ?」
ビイが人差し指を唇にあてて小首をかしげる。
要するに、とリュウは端的にまとめた。
「……俺の能力で相手の体内に潜むウイルスを”奪う”ってことだな」
「……そんなことできるの?」
「……俺は『怪盗』だぜ? それに『囚人』でもある。そういった能力に長けてるってこった」
褒められたものでもないが。
「……しゅごい」
ビイが目をキラキラと輝かせる。
さて。やるべきはルンの『堕天使』の力を奪い、もとの男の子に戻すことだ。
「……ナツミ、ビイ。お前たちの力でルンの猛攻を抑えてくれ。その隙に、俺が能力を発動する」
「りょーかい!」
「……しょうちのすけ」
ビッと綺麗に敬礼し、二人はルンと戦うユウのもとへと駆けて行った。
二人の背中を追おうと、ふくらはぎの筋肉を固めたとき、
「……なんで君はいつもそうなんだ……ッ!!」
背後から、イーグルらしき怒声が飛んできた。