飛翔しゆく鷹(3)
「…………同じ『眼』を持ってこいか……」
リ ュウのいかなる攻撃もイーグルの『見切り』によって無力化されていた。さすが目の良い『タカ』の獣人だけはある。
彼の一言がリュウに勝利の道筋を示すこととなった。
「……何を笑っている?」
リュウの様子にイーグルが訝しむ。
目つきをさらに鋭くさせ、威嚇するように翼を広げた。数枚の羽が舞い散る。ヒラヒラと落ちゆくその最後の一枚が地に触れるのを合図に、
「「――――ッ!!」」
再び、激戦が開始された。
先手をとったのはイーグルのほうだった。
大きな翼を器用に扱い、細かい速度を重ねていく。繰り出した右拳に合わせて翼を少しはばたかせ攻撃をさらに加速させる。吹き矢の様に素早い拳がせまったが、炎竜鎧を身に纏うリュウには何の問題もなかった。
残像を伴う拳を目で追い、コンマ一秒先の未来を頭の中で組み立てる。
結果、イーグルの狙い先は左頬だと推測した。
胸部の鎧あたりに気を集中させ炎を燃焼させる。その勢いを利用して、イーグルの突き出す拳の数センチ後方へと下がることに成功した。
スカっとイーグルの攻撃が宙を横切る。
「……『見切る』能力があるのに、『見切られる』とは皮肉なもんだな」
「――――ッ」
リュウの挑発にイーグルが顔をしかめるのをはっきりと見た。
翼をはばたかせる勢いが強くなる。
それに伴ってイーグルの攻撃速度が徐々に加速し始めた。
「……ッ。ッ。……ッ!!」
しかし、それもすべて流れるようにリュウに回避される。
「……クソッ!!」
積もるように溜まっていたフラストレーションが頂点を迎えた。
隙だらけな大振りの蹴りを繰り出す。
「……完全に『見えた』ぞ。そして『奪った』」
「なに、を……ッ!」
大振りな蹴りがリュウの首を狙い撃ちにする。
――――その軌跡をリュウの瞳は捉えていた。
ブン――――ッ!!
勢いよく振り払われた蹴りが難なくかわされる。
地に足がつくまでのほんの短い時間の中で動きがあった。リュウが背中の炎を爆発させてイーグルの懐へと一気にもぐりこんだのだ。
背中と右肘のエンジンを重ね合わせた、重い一撃がイーグルの腹部にめり込む。
そのまま身体ごと持ち上げて十数メートル先の大木に叩きつけた。
「がぁ……っ!?」
イーグルの全身からみるみると力が抜けていく。
その姿を見下すリュウの瞳はイーグルのように青みを帯びていた。
「……『奪盗』が使えなくとも、俺は人の能力を真似できるんだよ」
所詮、真似ごとでしかないがなと彼は不敵に笑う。