飛翔しゆく鷹(2)
「……獣人化か」
全身から体毛を生やし鳥そのものの顔つきになったイーグル。
タカの獣人はその大きな翼を羽ばたかせ猛スピードで迫りくる。分厚い肉をも引きちぎる四本の爪をたてて腕を大きく振るった。
「……させねえよッ!」
鎧の胸部あたりの炎を燃焼しその勢いで後方へと下がる。
常人の目では見えないほどの動き。いくら目のいいイーグルでもこの動きを見切ることはできまい。
しかし、リュウの予想は悪い意味で裏切られることとなる。
イーグルの目のまわりの血管が浮き上がったかと思えば、瞳が青色に変化したのである。
その瞳は確実にリュウの回避を捉えていた。加速するように翼を揺らす。太く鋭利な爪先が鎧の中でも固い部分に覆われていない腹部に触れた。チクっと注射器の針が皮膚を貫通したような痛みが走る。
「……チッ!!」
一瞬判断の遅れたリュウは右肘をブーストさせて回転力を得た。その勢いを借りてイーグルの顔側面にハイキックを加える。
だが、その攻撃すらも彼の視界の範疇だった。
背中をそらし間一髪のところでかわされてしまう。
バットで素振りをしたような空気を裂く音が生まれる。
「……ちょこまか動きやがってッ!!」
炎竜鎧の術の副作用か、感情の昂りやすい状態にあるリュウは頭に血を昇らせた。全身に力が入りすぎる。
彼はさらなる追い打ちをかけた。
足の裏を爆発させ一気にイーグルの懐へともぐりこむ。
右肘を爆発させピストルのようなジャブを、左かかとの炎を燃焼し、かかと蹴りを、
――――右、左
右右、左左左、右左右左――――――――
けれど、リュウの連撃はすべて見切られてしまう。
地を這うようにして近づき、つま先から顎へとかけてアッパーを加える。
「……見え透いた攻撃だね」
「――――っ!?」
リュウの攻撃はまんまと避けられ顔面にカウンターを浴びせられてしまった。ひるんだ一瞬の隙に回し蹴りを腹部にもらう。
一定方向のベクトルを保ちながらリュウは壁に激突した。肺の中の空気が強制的に吐き出される。
スタスタと歩み寄ってくるイーグルの表情は死んでいた。もとより、獣人の喜怒哀楽などリュウには理解できないのだが。
彼の表情とは裏腹に、口調はとても、とても軽やかなものだった。
人間のものではない指で遊びながらこう言う。
「……僕の『眼』から逃げられると思うなよ。勝ちたいなら僕と同じ『眼』を持つことだ」
「――――――――っ」
この一言が、リュウの瞳に希望の光を灯らせることになる。