飛翔しゆく鷹(1)
――――同時刻。
王宮の裏口での死闘はさらに激化していた。
「……オラァッ!」
炎竜の鎧を身にまとっているリュウが拳に炎をともしてイーグルに打撃を加えようとする。
しかし、高速の世界で生きるイーグルには届かない。
空気を焼く炎が宙を切る。
「……まだだッ!」
背中の炎を爆発させロケットエンジンのように加速した。後方に下がったイーグルとの距離を一気に詰める。炎剣を生み出し、力のこもった腕を突き出した。
「……っ」
イーグルのまゆがピクリと不自然に動く。一拍置く間もなくイーグルは地を蹴り大きな翼を羽ばたかせて飛翔した。突き出した切っ先がイーグルの衣服の先端にかすれてちぎれる。
もうひと押しだとリュウは確信した。
右肘あたりの炎を燃え上がらせ、先ほどと同じ要領で動力を得る。ぐるりと半回転した体を空に向けて、空中で仰向けの状態になった。
両腕を突き出し上昇しゆく敵に術を発動する。
「……爆炎砲火の術!!」
両腕から大砲の玉に匹敵するほどの炎塊を放出した。ヒリヒリと顔の肌が焼けるのを感じ、焦げ臭いにおいが鼻につく。
砲弾は飛び上がっていくイーグルを捉えようと猛スピードで襲い掛かった。
今まで無表情だった彼の余裕が崩れていく。
「……もらったぜ、イーグル!!」
死ぬことはないだろうが致命的なダメージは与えられるだろう。
だが、そうもいかなかった。
火の玉がイーグルにかぶさりリュウの位置からは見えなくなったところで。
突如として、火の玉が真っ二つに割れた。
「……なっ!?」
突拍子もない出来事に思わず情けのない声がとびだす。
変化はそれだけではなかった。
縦に半分割れたかと思えば、次は横に、今度は斜めに、それからそれから……――――火の玉は、まるで玉ねぎがみじん切りにされたかのように粉々になった。
爆発音が響き渡り、すぐあとに熱風が吹き渡る。
リュウは体勢を整えなおし距離を置いた。
目の前が真っ赤な景色で覆いつくされる。草木にうつり炎上する。真っ黒な煙があちらこちらから空に昇っていった。
「……何が起きたんだ……?」
飛び上がるイーグルに火の玉を切り裂くだけの余裕はなかったはず。
まさか新手か、とリュウは疑った。
だが、推測はすぐに否定されることになる。
炎の中から、一つの影が姿を現した。
全身の肌が土に似た色の体毛に覆われている。指は四本で先端が鋭利な刃物の様にとがっていた。
跡形もなく変化していたのはその顔。愛想のない目つきはさらに鋭さを増し、口には鳥類特有のくちばしが生えている。
長い髪が逆立ったその姿は――――
「……ここに来て獣人化かよ……」
うんざりするようにリュウは悪態をついた。
この姿には見覚えがある。ちょうど、ウシオと出会ったあの森の中でだ。
冒険始めたてのウシオたちに襲いかかっていたライオネルのその隣にいた獣人。
――――タカの獣人だ。