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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第10章 たどり着いた庭で
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ソウル・オブ・キング(4)


「ヒナタちゃん?」

「わたしも……たたかいますっ」


 その声は恐怖で震えていた。

 つついた指先も微かに痙攣している。

 だけど、彼女の瞳に揺らぎはなかった。

 まっすぐな目で僕を見上げてくる。


「……わかった。それじゃヒナタちゃんはライ君と一緒にギンを助けてあげて」

「はいっ!」


 恐怖に打ち勝つことは、誰にとっても等しく難しい。

 ヒナタちゃんはそれに勝った。

 僕は彼女の勇気を疑うことなく信じる。

 役者はそろった。


「みんな、絶対に生きて戻ってくるんだよ!」

「「「はいっ!!」」」


 ハナちゃんが王宮の裏口に向かって走り出し、イッちゃんはギンのもとへと駆け寄る。


「すぐに戻りますわコーさま!」

「怪我したらいつでもわたしが治してあげるからねっ」


 そんな言葉を残したあと、二人はそれぞれの持ち場に向かっていった。


「お前、獣人なのか?」


 耳に入ってきたライくんの言葉に僕はしまったと後悔する。尋ねられたヒナタちゃんはうつむいて言いにくそうに答えた。


「え、えっと、その……半分だけ…………」


 獣人はこの世界の人にとって悪魔みたいな存在だ。

 ヒナタちゃんの場合は他人に感染することが無いとはいえ、ライ君はそれを知らない。


「ライくん違うんだ! ヒナタちゃんの場合はその――――」


 何とか誤魔化そうと二人の間に割って入ろうとしたが、


「じゃあお前強いんだな!」

「――――え?」

「だって獣人は強いだろ? 半分だとしても、頼りにしてるぜ!」

「う、うんっ!」


 彼らのやり取りを見て、気づかされた。

 差別という幻影を生み出すのは、この世界で。この世界に踊らされているのは、大人のほう。彼らはただ、純粋に世界を見つめているだけだと。

 ライくんの一言がヒナタちゃんに光を与えた。光を受けた彼女の勇気はまた一つ大きく成長する。

 負けてはいられないと、僕はシオンに向き直った。


「シオン…………」


 彼の無垢さを表していた銀色の髪は真っ黒に染まり果てている。

 瞳には光彩が灯っておらず、見つめるのはただの虚空。僕の髪が白黒になっているおかげで判別はつくけど僕らは瓜二つの姿をしていた。

 彼とは『仲間』であること以外に、何かのつながりを感じる。

 この先の未来を知るのが怖い。真夜中の道路で一歩踏み出すのにはそれなりの勇気がいる。

 拳を強く握りしめ、ギリっと奥歯を噛んだ。

 そこで、ヒナタちゃんを追いかけようとするライくんに声をかけられる。


「……なぁ、あんた。一つだけ聞いておきたいことがあるんだけど」

「ん? 何かな」

「あんた、兄弟とかいたりするか? っていうか俺と会ったこと、ないか……?」


 たぶん初対面じゃないかと僕は否定した。

 もしかすると、僕とそっくりのシオンのことなんじゃないかな。シオンが王様だった頃に見かけたとか。それにしても、僕に兄弟がいるなんて変な質問だなぁ。


「兄弟については、一応いるっちゃいるんだけどね……」

「……ユウ」

「へ? いやいやリュウは違うよ! あんなピュアピュアと兄弟なんてありえない!」

「違うって! ユウだよユウ! 『ユ』、『ウ』!」

「なんだ、ユウか。てっきり僕はリュウなんじゃないかと……――――ん?」


 ちょっと待って!?

 どうしてライくんがユウの名前を知ってるんだ!?


「ライくん! もしかして――――っていない!?」


 慌てふためている間にライくんは僕から遠い位置に離れていた。空回りしそうなヒナタちゃんを追いかけていったのだ。

 真相を聞き逃したとうなだれる。

 けれど、不思議と僕の心は元気に満ち溢れていった。

 アドレナリンが全身を駆け巡る。

 そっか。


 ――――ユウも、この世界にいるんだ。


 希望が僕の枯れ果てていた心をうるおした。

 心は身体に大きく影響する。精神エネルギーは溢れんばかりに回復し同時に身体の傷も治っていった。


「はは……久しぶりかも。こんな感覚」


 死にかけた時に一度だけ全回復する感覚に似ている。

 僕は足腰に力を入れ正面に佇む相手を見据えた。

 彼の瞳は僕を捉えてはいない。

 だからこそ、取り戻す。


「いくぞ、シオン!!!」


 氷竜ひょうりゅうの鎧を身に纏い、一歩踏み出した。

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