ようやっと隠れ家(1)
「わたくしと混浴ですわ~~~~!!」
そう叫びながらハナちゃんが空からダイビングしてきた。
「うわあああああ!?」
バッシャアアアンッ
勢いよくダイビングし激しい水しぶきがあがった。
そしてブクブクと泡が浮かんできたかと思うと、水中からハナちゃんが飛び出してきた。
「コーさま、わたくしと混浴できてどうですか!?」
「どうって!?」
ハナちゃんが顔をグイッと近づけてくる。
僕は思わず立ち上がってしまった。
「ッ!!!?」
「……ん? どうしたの?」
ハナちゃんが目をとび出すほど驚いているように見えた。
僕が立っただけでそんなに驚くかな?
「どうしてそんなに驚いて……」
アッ、スッポンポンダッタネ。
ハナちゃんが顔を真っ赤にさせて口を開いた。
「コーさま! どうしてバスタオルを着けておられないんですか!?」
「いや、だって! 僕のはイッちゃんに貸しているし! というか、温泉でバスタオルを湯につけたらダメなんだぞ? ぷんぷんっ!」
ダメだ、意味不明なことまで口走しちゃった。
ここは即撤退したほうがよさそうだ。
そう決定した僕は、とりあえず自分の服を取り戻すためにイッちゃんのバスタオルをはぎ取ろうとした。
「イッちゃん、とりあえずバスタオルを返して!」
「きゃっ、わたし心の準備がっ!」
「コーさま、はぎ取るならわたくしのバスタオルを!」
カオスな状況の中、さらなる爆弾が投下された。
空から誰かが降ってきているのだ。
「ハナああああああ! 一緒に混浴しようよおおおおお!」
「げっ、シオン!?」
ハナちゃんが心底嫌な顔をする。
まるで週末が訪れる喜びに浸っているとき、課題があるぞと宣告されたときのような表情だった。
バッシャアアアアアアアアン
再び、大きな水しぶきがあがった。
水中からシオンが顔を出す。
「ハナ! オレと混浴できてどう!?」
「心底嫌な気分ですわ!」
ガーン
シオンがいつもと同じく絶望の表情を浮かべる。
しかし、今回は一味違った。
「そんなことないんでしょ? 実は嬉しいんでしょ?」
「何をおっしゃってますの!? 嫌ですわ!」
ガーン
けれど彼はめげずに立ち向かう。
「またまた、照れ屋なんだから!」
「今日はなんなんですの!?」
シオンの男らしさに、なぜだか僕は感化されてしまった。
僕も男らしくいかなきゃだめだよね!
「イッちゃん、バスタオルをはぎ取らせてもらうよ!」
「やっ、ダメです!」
「ハナ! オレの鍛え上げられた体を見てよ!」
「やっ、近寄らないでください!」
まわりから見たら完全に通報されるような光景だった。
僕たちの勢いは止まらない。
「さあイッちゃん、バスタオルを!」
「さあハナ、オレの肉体美を!」
プチッ
何かが切れる音がした。
ゴゴゴ
アレッ、以前にも聞いたことがある音が聞こえるヨ?
「ねえシオン、このパターンって」
「……そうだね。どうやらやりすぎてしまったみたいだ」
HAHAHA、と僕たちは乾いた笑みを浮かべる。
「コーくん」
「シオン」
「「……はい、存じ上げております故、何なりと」」
アッ……。
吹き飛ばされた僕たちは隣の男湯の露天風呂に吹き飛ばされたのだった。
バシャアアアアアアン
ブクブク
男湯に浸かっていたらしいリュウが呆れてつぶやく。
「……バカばっかりだ」
*
温泉からあがった僕たちは再び街の外へと移動していた。
温泉で見かけなかったナツミちゃんも、僕たちが男湯に飛ばされた後に女湯に浸かっていたらしい。
今ここにはみんなが集まっている。
「イネ~、無事でほんと良かったよ~!」
「ありがとうございますっ。みなさんのおかげです!」
女の子たちがイッちゃんの回復を心から喜んでいた。
なんだかんだあったが、助かってくれて本当に良かった。
「あのさ、僕たちが戦いから離脱した後に何があったのか教えてくれないかな?」
後の戦いを知らない僕はリュウやシオンに聞いてみた。
「敵がやっかいで苦戦していたんだけどね、突然あいつらのほうから撤退していったんだよ」
えっ、敵から攻撃してきたのに向こうから逃げていったんだ。
「……その後に以前出くわしたライオン人間が現れた時はさすがに焦ったぜ」
「いや、ライオネルたちは僕たちを助けてくれたんだよ?」
「…ああ、あいつらから聞いたよ。それと今後の指示もいろいろと受けた」
リュウが続けて今後の方針を説明する。
「……ライオネルたちは調べることがあるそうだ。それが終わるまではこの街の外で待機してろだとさ」
「えっ、宿屋に止まっちゃダメなのかな?」
「それが『街は危ないから入るな』だってさ」
話を聞いていたシオンが会話に入ってきた。
「う~ん、とりあえずライオネルたちと合流するまではこの街の外で待機してろってことか」
「……そういうことだな」
リュウが結論づける。
「う~ん、野宿の日々が始まるのか。億劫だなあ」
「それならご心配いりませんわ!」
僕の独り言に、ハナちゃんが反応を示した。
「どういうこと?」
「ご覧になっていればお分かりになりますわ!」
と、ハナちゃんは目をつぶり集中し始めた。
そしてカッと目を開くと、
「や~~~~~ッ!!!」
地面に手をつけ気合いを入れた。
バキバキシュルルル
すると周りの植物が急速に育ち始め何かへと形を整えていく。
あっという間に、僕たちの目の前には立派な一軒家が完成していた。
「どうですかコーさま!?」
ハナちゃんがキラキラとした目でこちらを見つめてくる。
まるで褒めてほしいといわんばかりの子供のようだ。
「ハナちゃん、ほんとにすごいよ!」
僕は最大の敬意と感謝を込めて彼女の頭をポンポンした。
「ッ!? わたくしもっとがんばっちゃいますわ~~!!!」
バキバキシュルルル!
頭をなでられたハナちゃんは、より気合いを込めてさらに豪華なつくりへと変化させた。
「コーさま! もっとポンポンください!」
「あ、あはは……」
彼女は猫のように幸せそうな顔をしていた。
「よし、じゃあハナが作ってくれたお家に突撃だ~!」
「「お~!」」
ナツミちゃんを先頭にみんなが中へと入っていく。
「じゃあ、僕たちも行こうか」
「はい!」
僕の腕にしがみつき恋人のような形をとるハナちゃんと共に、家の中へと入っていったのだった。
「あ、あの、恥ずかしいんだけど?」
「いいじゃありませんか! 今晩は寝かせませんよダーリン!」
「ッ!? ダメだってば!」
ハナちゃんにもてあそばれる僕だった。
*
……前にいたイネが羨ましそうな顔をしてウシヲを見ていたことに、彼は気づかなかった。