王宮の庭に一輪の花(4)
シオンを元に戻すにはどうすればいいか。
この問いに対し僕は過去の成功例を参考にした。ハナちゃんが暴走したシオンを抱きしめて、元に戻したというやつだ。
細かいことをいえば今のシオンは暴走状態ではない。意思そのものが心の奥底に眠っている。
一方で別の人格が覚醒しつつある。
なんとしても早急に手を打たなければならなかった。
「……ッ!!」
変化の術を用い、ハナちゃんの姿に変身した僕がシオンに飛びつく。
後ろから腰に手を回した。
ゴツゴツした男らしい骨格に嫌気がさし始めたとき、ふと思う。姿かたちがハナちゃんでも中身がそうでなければ意味がないんじゃないかと。
こんな話をよく聞く。
危篤状態の入院患者さんの手を家族、恋人、その他大切な人が握った。すると嘘のように病が回復の兆しを見せ始めたのだという。
つまり、見た目の問題ではない。
今の場合でも同じだった。
何を勘違いしていたんだろう……僕のバカ!
軽率な行動を反省するも、もう遅い。すでにシオンの後ろからハナちゃんの姿で抱き着いているのだから。
「コーさまっ!」
「コーくんっ!」
二人の声が重なる。
これ以上抱き着いていてもキリがない。それをきっかけに僕はシオンの体から腕を外そうとした。
――――直後、目の前が真っ暗なテレビ画面のように黒く染まった。
「なッ! なにコレっ!?」
一瞬、視界を奪われたのかと思った。
しかしなにやら違うようだ。遅れて爆風がやってきてから、初めてそれに気がつく。
身体が簡単に宙に浮かび上がった。気持ち悪い浮遊感が内臓を襲う。
空から地上を見下げた。
シオンの周りが黒い渦のような何かに取り囲まれている。まるで紙にボールペンでぐちゃぐちゃに試し書きしたような光景だ。
――――もしかして、暴走?
暴走したときもこんな感じに似ていたと思う。
どうやら僕はあの渦の爆発のせいで吹き飛ばされたようだ。イッちゃんやハナちゃんたちは荒れ狂う暴風を防ぐので必死だった。
隙だらけだ。シオンが攻撃する前に早く地面に足をつけて彼女たちを守らなくちゃ!
そう思ったのに。
グサッ
「え?」
渦の中から飛び出す黒翼に似た影が――――
グサッ
グサグサッ――――
グザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!!!!!
猛風に動きを取られているイッちゃんたちの身体を、
――――串刺しにした。