王宮の庭に一輪の花(2)
ハナちゃんを味方に加えて新たなる戦いが始まった。
「僕は接近戦を試みる! ハナちゃんは援護をお願い……!」
「了解しましたわ!」
鎧とつながっている氷の尾を砕き動きやすい状態へとシフトする。
これだけでも、動ける速度はだいぶ違ってくる!
「――――」
表情の読めないシオンが黒翼を操作した。五つの翼を一つに集め、影でできた大きな右手が生み出される。シオンが実の右腕を振るった――――と同時に影の右手が接近する僕へと襲いくる。
ドゴァアアアッ!!!
影の右手はハナちゃんの操る大木によって行く手を阻まれる。猛風が吹き荒れ砂塵が舞った。大木は一秒足らずでいとも簡単に握りつぶされてしまった。
しかし、それだけで効果は十分だ。
僕にとっての一秒は一分に近い。『忍者』と『暗殺者』の速度に、今は氷竜鎧の力も付与されている。他の人の体感で例えるなら、僕は”音”よりも速い。
「――――」
『忍者』の能力を持つシオンが僕の動きを目で追う。しかし――――シオンの視界から僕の姿が一瞬にして消える。まるで瞬間移動をしたように。
「後ろだ……ッ」
「――――――――」
僕は誰の瞳にも映らぬスピードでシオンの背後へと回ることに成功した。シオンは今でさえ僕の存在に気づけていない。
僕の目標は倒すことではなくシオンの意思を取り戻すこと。
一番効率のいい方法はまず気絶させて身動きを取れなくすることだ。それから意思を取り戻すために色々と試したほうがいい。
そう判断した僕は相手の意識を奪う術を発動した。
「誘眠波の術……ッ」
突き出す手のひらから電波のような多重の円が発生する。これを脳に受けた人物はすぐさま夢の世界へと旅立つことになる。
――――不意打ちの出来事だった。
「面白い術じゃねェか、アン?」
こちらに振り返ることのないシオンの口からそう聞こえてきたのだ。その口の端は口裂け女のようにつり上がっている。
やっぱり……ッ。
とある事実の確認をとれたものはいいものの、パルス波は自動防御である影の壁に邪魔されてしまった。下からヌッと出てきた壁から、いくつもの黒い手が現れる。これにつかまったら最後だ。
「……ッ!!」
強張る身体に無理やり力を入れなおし体勢を整えた。背後に回った時と逆の要領でシオンの後ろから退避する。ズザアアっと、砂を巻き上げながらハナちゃんの隣へと戻った。
「大丈夫ですかコーさま!?」
「うん。それよりも言っておきたいことがある」
「言っておきたいことですか……?」
先ほど確認できた事実をハナちゃんに共有しておいた。
「シオンの身体に別の人格が芽生えつつあるかもしれない」