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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第10章 たどり着いた庭で
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王宮の庭に一輪の花(1)

 五つ目の黒翼がシオンの背中から飛び出す。その軌道は僕の後ろに隠れているヒナタちゃんに向かっていた。


「……ッ」


 息を呑んだその直後、


「危ないですわッ!」


 聞きなれたお嬢様口調とともに王宮の支柱くらいの大きさのある大木が横から伸びてきた。蛸の足のように柔軟な動きを見せヒナタちゃんに襲い掛かる黒翼を薙ぎはらう。

 その一部始終の中で僕はヒナタちゃんの安否を確認した。


「怪我はないヒナタちゃん!?」

「……う、うんっ」


 腰を抜かして驚きはしたものの、怪我はしていないようだ。

 よかった……。


「……ッ」


 思い出したように、慌てて大木の伸びてきたほうへ視線をやる。

 そこには黒を基調としたメイド服で着飾る、ハナちゃんの姿があった。

 赤く染まったドレスではない。オレンジ色のポニーテルは健在だ。


「……ハナちゃ、ん?」


 かすれた声がこぼれる。

 ふと、ハナちゃんと目が合った。しかし、途端に視線を外される。

 とはいっても存在を無視されたわけじゃない。

 彼女は僕に歩み寄り声をかけてくれた。ハナちゃんには似合わないどこかぎこちない口調で、


「ご、ご無沙汰しておりますわ、コーさま……」


 せっかくこうやって顔を合わせられたのに僕は言葉を返すことができなかった。

 聞きたいことが山ほどある。

 話したいことも負けじとたくさん。

 だけど、言葉が出ない。

 先に返事をしたのは僕の後ろにいるイッちゃんだった。


「ひさしぶりだね、ハナっ」

「そ、そうですわね。……ご無事で何よりですわ、イネ」


 イッちゃんの口調はいたって自然だ。でもハナちゃんのほうは僕だけでなくイッちゃんに対してもぎこちなかった。

 再び声をかけようと口を開いた。

 神さまは残酷だ。

 それよりも先にハナちゃんが話し始める。


「イネっ。これはいったいどういう状況ですか?」

「わたしたちにもよくわかってないのっ。ただ、シオンくんが敵に回って」

「――――――――ッ」


 ハナちゃんの顔つきが一気に変わる。

 目を見開き、イッちゃんの指さすほうへ顔をむけた。

 彼女の瞳に灰色の髪のシオンが映る。

 呆然としていた。

 怒りに満ち溢れていた。

 哀しみがにじみ出ていた。


 ――――嬉しさが涙に秘められていた。


「ハ、ハナちゃん? 泣いてる、の……?」


 やっとのことでかけられた言葉がそれだった。

 我に返ったハナがさりげなく目元をすそでぬぐう。


「ご、ご冗談を! あのバカは何を考えているのかといきどおっているのです!」


 いつもの調子でハナちゃんの表情に張りが戻る。

 僕は心のどこかで安堵した。

 それにしても、とハナちゃんがつぶやく。


「本当に何を考えているのですか? わたくしたちの敵に回るなんて……」

「たぶんあれはシオンじゃない。本物のシオンは眠っているんだ」

「眠っている……?」

「うん。シオンの意思はあの身体の奥で眠っている。今はからっぽの操り人形みたいなものなんだと思う」


 この短い間で体験したことをもとに、率直な考えを述べる。

 そして僕たちの最終的な目標を告げた。


「僕たちはシオンの意思を取り戻すために戦ってる。力を貸してほしい、ハナちゃん」


 手を差し伸べて握手を求める。

 彼女はそれを数秒の間だけ見つめた。

 直後。


「危ないコーくんっ!」

「おにいちゃん!」


 イッちゃんとヒナタちゃんの声で気が付いた。

 薙ぎ払われた五つ目の黒翼が僕に襲いかかっている。

 差し出した手を引き戻して対処しようとした時。

 僕の手が握られ代わりに黒翼をビンタするように大木がふるまわれた。吹き飛ばされた黒翼の先端が近くの壁に衝突し、ごうッ!! と破壊音が空気を震わせる。

 あっけにとられる僕に、こう言葉がかけられた。


「わたくしにお任せください、コーさまっ!」


 その声音は、いつもの、頼りになる、ハナちゃんそのものだった。

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