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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第10章 たどり着いた庭で
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忍者と影の衝突(3)


 大切な誰かがいなくなるほど苦しいことは他にない。

 そういった経験をしたことはないはずなのに想像するだけで胸がずきりと痛んだ。

 だからこそ僕の心に焦りが生じる。


 ————パキッ


「……ウシオさん?」


 亀裂の入る音を耳にしたギンが音源である僕の方に顔を向けた。僕の頬に肌割れができている。僕もそのことには気が付いていた。

 焦りが僕の精神を蝕み『もう一人の僕』の肩を揺さぶり起こす。

 だけど僕はギンに笑みを向けて大丈夫だよと伝えた。


「暴走はしない。もう誰も傷つけたくはないからね」

「……分かりました。あなたを信じましょう、ウシオさん」


 ただそれだけを言ってから目の前の敵に視線を戻す。

 焦ってもいい。

 大切な仲間を取り戻せるのなら、何でも。

 そのとき————————


「お待たせいたしました、クロ様」

「…………」


 クロたちの背後に二人の女性が上から降ってきた。


「おぉ、待っていたぞメンデレ」


 メンデレと呼ばれたピンク髪の女性が舞踏会でお辞儀するように頭を下げた。

 黒のワンピースに白い手袋という奇抜な格好をしている。後ろで結わえたウエーブの強い髪が大人の色気を醸し出しているが、それが逆に密かなドス黒さをも匂わせている。

 そう、コイツは。

 済ませた顔で呼吸しているコイツこそが。

 ヒナタちゃんに妙な薬を打ち、結果として半獣人にまで追い込んだ張本人だった。


「…………ッ」


 たまらなくなって奥歯を噛み締めた。

 ギリリっと嫌な音が鼓膜につく。

 クロはもう一方の人物にも声をかけた。


「ユーリ。前回の失敗をここで取り返してくれ」

「……はい、クロ様」


 ビキニに包帯まみれというこちらも変わった衣装を身に着けている褐色少女が、目を伏せながらにそう返答する。

 彼女は暴走するハナちゃんから僕が逃がした『革命軍』の子だ。前回の失敗とはイッちゃんを誘拐した時のことだろう。もう二度と敵対はしたくなかったが、相手に回るというのなら仕方がない。


「あの白いてぶくろのひと、わたしに何かしたひとだ……」


 ぎゅっと、ヒナタちゃんの袖をつかむ力が強くなる。

 目じりには涙が浮かんでいた。


「あっちはわたしを連れ去った女の子……っ」


 かくいうイッちゃんはユーリの姿を見て当時の恐怖を思い出していた。身体が小刻みに震えている。

 そんな二人を安心させるかのように初めに声をあげたのはアミちゃんだった。

 薄い胸をはって高らかに宣言する。


「大丈夫よ二人とも! あんなやつらなんかコテンパンにしてやるんだから!」

「アミちゃん……」

「ギンとウシオ君がねっ!」

「「オイッ!!」」


 お前は戦わんのかーい!

 シリアスな空気がその一言だけでぶっ壊れた。

 しかし張っていた肩の力が抜けているのに気が付く。

 僕とギンはお互いに見つめ合いそれからぷっと吹き出した。


「まぁ、僕たちに任せておいてよ……!」

「アミじゃ頼りないですからね」

「え!? うそうそ! 今のなし! 私も戦うから~!」


 冗談を冗談で返されたアミちゃんが目をぐるぐるにして抗議してくる。

 もちろん、それも冗談だ。


「おめでたいやつらだな。これから待ち受けるのは『死』に他ならないというのに」


 動物園の檻の中でさわぐ猿を眺めるようにクロがため息をつく。

 おめでたいやつら、か。

 そこまで考えて僕は鼻で笑ってやった。

 ギンとアミちゃんも同じように腹をかかげる。


「……おかしいなやつらだ」

「いやいや。おかしいのはアンタの発言でしょ」

「なんだと……?」


 いまだ理解できていない低能っぷり。

 僕はやれやれとため息をつき返して、こう教えてやった。


「仲間を迎えるのに笑顔じゃないなんて、バカだよ」


 それは勝利を宣告したようなものだった。シオンを助け出すのは当然の未来だというように。

 僕に対するクロの反応は簡素なものだった。


「やれ」


 命をかけた救出劇が幕を開ける。

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