はじめての王宮(3)
「シオンっ! シオンじゃんか……っ!」
王宮の入り口の階段付近に佇んでいる彼を目にして僕はそう叫んだ。いつぶりの再会なんだろうと無性に心がはずむ。
僕は手を大きく振って、シオンに呼びかけた。
「ねぇ、シオンってば! 聞こえてるでしょ?」
しかし、いくら声をかけてもシオンの反応は返ってこない。
おかしいなぁ。この距離だと聞こえてると思うんだけど。
直線距離にしてわずか五十メートル弱。走れば十秒もかからなない。
「んもう! どうしたんだよ!」
じれったくなった僕はこちらからコンタクトを取ることにした。
「ほら! ギンもぼさっとしてないでいくよっ!」
「えっ、あ。ひゃ、ひゃい!」
……ははん、なるほど。彼女にとっては一年ぶりくらいの再会だから、緊張してるのか。
しょうがない。僕が背中を押してやるとしますかな。
「いくよー!」
「あっ、ウシオさん!?」
ギンの手をとって徐々に駆けだす。
「……ッ」
一瞬足がもつれそうになりながらも、腹を決めたらしくギンは一歩また一歩と踏み出し始めた。あっという間に距離は縮まり残り十数メートルとなったところで。
「ん……? …………シオン?」
ふと、彼の様子に違和感を抱き始める。
なんていうんだろう。確かにシオン本人なんだけど、中身が違って見えるような……? 例えていうのなら、幽霊に乗り移られてしまった人みたいな感じだろうか。
それに、目の焦点が僕たちに合っていない。どこか遠くの彼方を眺めているような。
「……お、王……?」
僕と同じ感想を持ったようでギンも首をかしげていた。
――――前触れはなかった。
「やあ、諸君。久しぶりだね」
「「――――ッ!!?」」
風の揺らぎといったような、ほんの小さな前触れもなく、シオンの隣にその男は現れた。
黒装束にフードを深くかぶった正体不明の男。
王宮に仕える人間としての顔を持ちながら、『革命軍』の指揮官である、この男。
「クロ……ッ!!」
「クロさん……?」
激昂する僕とは対照的にギンは蚊の鳴くほどの声で呟いた。
「おやおや、ギンじゃないか。王様を探しに飛び出したとは聞いていたが、まさか彼らと行動しているとは驚いたよ」
「……アナタには色々と聞きたいことがあるッ」
状況を認知しフツフツと煮えたぎる怒りを込めてギンが低い声色でそう言った。身体も女性から男性に変化し瞳が蒼い輝きを放っている。
しかし、クロはギンの怒りをひらりと交わし楽し気な口調で、
「まぁまぁ。君のことはどうでもいいさ。エキストラが一人増えただけだからね」
踊るように手を動かす。
その手はシオンの肩にトンと置かれた。
「必要な役者は三人。私とこの王様。それと」
「――――――――君だよ」
肩に置かれていたその手を銃の形に変え――――僕のことを指さした。
「僕が……必要だって?」
わけがわからない。
クロの目的は『革命』を成すことのはずだ
そこになんで僕が必要になってくる。
いぶかし気な目つきでクロをにらみつける。
すると彼はふんっと鼻で笑って背を向けた。
「まぁいい。君に話す理由など、ありはしないからな」
「な、なにを言って」
「ただ一つ」
僕の言葉を遮ってクロは人差し指を夕焼けの空に突き立てた。
「君はボクのもとに帰ってこなければならない」
――――思考が停止した。
「行け、兄さん」
ドッッッ!!!!!
人形のように黙り込んでいたシオンを中心として、凄まじい衝撃波が生まれた。