小さな幻獣(3)
「……炎竜鎧の術……ッ!!」
炎の鎧を身に纏い、リュウは黒装束のクロとの距離を爆発的に詰めた。
『堕天使』の獣人の力がどれほどのものかはわからない。ただ、この状況を変えるには首謀者であるクロさえ倒せればいい。『堕天使』の獣人となり果ててしまったリュウたちの案内人・ルンを元に戻すのはあとからでもできるはずだ。
炎剣を生み出し力強く握りしめる。
手首をひねって刃をクロにむけた。
「……骨の髄まで燃やし尽くしてやる……ッ!!」
ズバァアッッ!!
空気を巻き込みクロの脇腹から肩に向かって斜めに剣を振りかぶる。
だが手ごたえを感じることはなかった。
「くくく。こちらだよ、青年」
「…………」
気づけばリュウの後方から声が聞こえてくる。
しかし、これはリュウの思惑どおりだった。
クロがどれほどの実力を持っているのかはいまだに不明だ。ただ、点から点へと瞬間的に移動できることは知っていた。すなわち、瞬間移動。
最初の攻撃がかわされるのは頭の中にあった。
大切なのは次の一手がいかに早いか。
轟ッ!! とエンジンのように右ひじあたりの炎が爆発する。
リュウはそのままの勢いにのって身体をひねった。
見事なまでの不意打ちがクロに襲いかかる。
「――――」
直後、クロの身体がビクリと震えたのをリュウは目にした。
「……もらったァあああああああッ!!」
「ッ!!」
フッ――――、
黒装束の切れ端に炎剣が触れたところでクロの姿が消え去った。
止まらない一撃が空を裂く。
「……ちッ!」
またとないチャンスを逃し怒りのままにリュウは炎剣で地面をえぐる。
それは直後に来た。
「ルン。ヤツらを薙ぎ払え」
「ハイ」
ブォオオオオオオオオオオオオッ!!!
立ってもいられない強烈な風が吹き荒れ、
ザザザザザザザザザザザッ!!!!
狂ったように降り注ぐ雹のような黒翼の羽がリュウたちに襲いかかった。