竜攘虎搏(3)
――――ヒュッ!!
隙だらけのユウの頬へとシャバーニは拳を繰り出した。
しかし――――、
「…………ぬぐゥううううッ!!?」
「ふ……っ」
頬に攻撃を受けたのはユウではなくシャバーニのほうだった。
いわゆるカウンターだ。
雷光のような黄色い残光が瞳に残る。
速いだけではない。力も相当込められているとシャバーニは確信を得た。
現に一発もらった彼の視界はくらくらと揺らいでいる。
「…………っ。色が変わっているだとッ?」
「まぁな」
リュウの姿を目にしたシャバーニがうろたえる。
ワインレッドの髪は全体的にレモンイエローに、赤いオーラは黄色オーラへと変色してる。
同様に瞳も黄色へと変化していた。透き通った瞳は、ある種金色のように輝いている。
ユウはオールバックから一本垂れている前髪に触れてはこう宣告した。
「これが俺の能力『神号気』だ」
「…………能力だと?」
聞き返すシャバーニに、ユウは丁寧にも答えてやる。まるで答えを教えてやっても君じゃ攻略できないよといわんばかりに。
「『神号気』は段階を踏んで肉体強化をはかる技だ。ちょうど信号機のようにな」
「…………信号機だと?」
「最初の赤いオーラは『止まれ』という意味だな。まったく攻撃を出せない段階だ」
だから防御に専念していたのかとシャバーニが腑に落ちる。いくつか反撃の機会があったものの、それを利用しなかったのも能力の制限がかかっていたからだ。
「そして」
と、ユウは人差し指と中指をたてて数字の二を示した。
「これが第二段階。黄色のオーラを放っているのがその証拠だ」
「…………意味は――――」
「『渡りたきゃ渡れ』、だな」
瞬間。
シャバーニの視界からユウの姿が消え去った。
いいや、消え去ったのではない。超スピードで動き回っているのだ。それはまるで地を這う雷光のようだった。
集中して見極めなければ動きを捉えることが出来ない。
シャバーニの屈強な背中に一筋の冷や汗が流れる。
「――――後ろだ」
「…………ッ!!」
ドゴ……ォッ!!
「…………ぐぼァッ!!?」
気配を感じ取ったと同時にふりかえったのだが、それではまったく足りなかった。残像を伴う拳がシャバーニの腹部にめり込む。ブチブチと筋線維のちぎれる嫌な音がした。
この拳は速いだけでなく重たい。
このままだとすぐに完全敗北してしまうとシャバーニは察した。
「どうだ。なかなかたまげたものだろう?」
「…………う、ぐゥ……」
軽いステップを踏み一秒間に何十発ものジャブを繰り返しユウは余裕を見せつける。
シュシュシュ――――っ、
空気がこすれて蒼い静電気が宙に走る。
「いいことを一つ教えてやる」
「…………余裕だな。敵であるおいどんに情報を与えるとは」
「強者の余裕ってやつだ。それと同時に強者に対する敬意でもある」
「…………フッ――――」
つくづく憎めないやつだとシャバーニは苦笑した。
「…………それで。いいこととはなんのことだ?」
「信号機ってのは三色で構成されているよな。赤、黄ときたら――――次は何だと思う?」
「…………ふざけたやつでごわす」
シャバーニは最後まで聞かずともユウの意図をくみ取ることが出来た。
俺はまだ、もう一段階残しているぞ。
お前の本当の実力を出せ、と。
「…………やれやれ。コレだけは使いたくなかったでごわすがな」
「『戦士たる者実力を隠すな。全力を出し切れ』だろ?」
「…………本当に気にくわない男だな、貴様は」
「お前も同じだっての」
戦士たちは切磋琢磨し強くなっていく。
――――シャバーニは、誰にも見せたことのない本当の力を引き出そうと決心した。
「…………はァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
天地がひっくり変えるほどの地震が起こり始める。
木々の葉が散りばめられ、砂嵐が世界を覆う。
「はは……っ。さすがにたまげたなこりゃ……」
シャバーニの本気の力の一片を垣間見て、ユウの表情から余裕が消える。
握るしめる拳はべっとりと汗でにじんでいた。
砂嵐がシャバーニを中心として一気に集中し始めた、その直後。
――――ピリッ
周りの雰囲気が、ガラリと変わった。
詳細にいえば、リュウたちのほうから、ビリビリと、プレッシャーを感じる。
限界まで力を引き出していたシャバーニも、変身を中断して、そちらのほうに、視線をやっていた。
「な、なんだありゃ……ッ」
「…………なんということだ……」
端的な言葉で表してしまえば――――
”『神』”
ユウとシャバーニの、その視線の先には…………、