竜攘虎搏(2)
シャバーニは大地を蹴りその圧巻の一撃を振りかざす。
このときシャバーニはユウからの反撃がくると見ていた。
赤いオーラを放ち、赤髪に変化した理由は不明だ。ただ能力や身体強化の類だということは長年培ってきた野生の勘でわかっていた。
「(…………さぁ、どう来るッ?)」
シャバーニの予想は大きく外れることになる。
ユウは両腕の側面同士をつけ、攻撃態勢ではなく防御の姿勢をとったのだ。
ゴッ!! と肉と肉がぶつかり合い衝撃が二人の身体に走った。
一瞬の静止の中でシャバーニとユウの目が合う。
ユウの瞳は髪と同じように赤く変色している。その瞳の奥底に密かに芽吹く蒼炎を見た気がした。
反撃がこないのならドンドン攻めるべきだとシャバーニは次の行動に移る。
彼はユウの支えを崩しバランスを奪おうと足を払った。だが、そうはさせまいとユウは軽く飛び跳ねて足払いを避ける。
「…………もらったでごわすッ!」
これがシャバーニの狙いだった。
攻撃をかわす要となるのは第一に足場だ。基本的に軽くステップをとれるくらいの状態でいると、足を強張らせることなく相手の動きに対応できる。逆に言えば、足を地面についていなければ身動きがとれないのだ。
低空ではあるが空中に浮いたままのユウの腹部めがけてブローを放つ。
バギィ――――ッ!!
ユウは即座に足をあげ脛の近くでシャバーニの拳を受け止めた。
しかし、シャバーニの猛攻はとどまらない。
正拳突きに掌打、頭突きやかかと落とし――など。
ありとあらゆる格闘の技術を用いて攻撃をしかける。
「――――――――ッ」
それに対しユウはただひたすらに攻撃を受け止める行為しか行わなかった。いや、行えなかったといったほうが正しいのかもしれない。
シャバーニの技術は非常に洗練されている。大概の戦士は反撃するどころか攻撃を防ぐことすらもできないはずだ。
その上シャバーニは今、獣人の力を開放している。
『技』と『力』と『速』。
とある商人が説いた最強の槍とはまさにシャバーニのことではないのか。
すべてを貫く唯一無二の『頂点』。
彼はそれそのものだった。ともすればその攻撃をいまだ受け止めているユウもユウで圧倒的ではあるのだが。
永遠とも思われる攻防にも、やはり終わりは訪れた。
左肘を使ったエルボーがユウの防御を崩したのだ。バランスを失ったユウが無防備な状態をさらしてしまう。
シャバーニは勝利を確信した。
「…………見事だったがもう終わりだな」
「――――――――」
「…………さらばだ」
隙だらけの顔面にひねりを加えた固い固い拳を繰り出す。
――――ユウの頬を捉える、その直前。
ブワア……ッ!!
ユウの身体に変化が起こり――――、
――――雷光の如き攻撃がシャバーニの右頬に届いた。