悪しき因縁(2)
「……炎が消され――ッ!?」
「だから甘ェってンだよッ!!」
「……ガアッ!?」
リュウの拳にフリーダの左手が触れた瞬間、燃えさかっていた拳の炎が消滅した。そのままフリーダの右こぶしがアッパーの形でリュウの顎に直撃する。
衝撃が脳天にかけぬけ目の前がまっくらになった。視界はすぐに回復するが足取りがおぼつかない。軽い脳震盪を起こしているようだ。
リュウはぐらつく足に力をこめながら必死に反撃の糸口を探した。
しかし、脳に出ている障害が思考を邪魔してうまく考えがまとまらない。
それを見逃すフリーダではなかった。
彼は再びリュウの懐へと潜り込み今度はみぞおちに深く拳をめりこませる。
「……ごばァ……ッ!!?」
「ケヘヘッ!!」
メリィッという気味の悪い音がフリーダにとっては最高の快感だった。脊髄に電流が走ったかのような感覚がまた癖になる。
一方瀕死の一撃をうけてしまったリュウは何も考えることが出来なくなった。ただひたすらに苦痛を和らげようと呼吸を確保するだけだ。
不可思議なことに思考ができるほどに回復までフリーダからの追撃はなかった。
このチャンスを利用して次の一手はと頭を切り替える。
――――それはフリーダの極悪卑劣な趣味であった。
彼は苦痛を最大限に与えるにはどうすればいいのか知っていた。人は幸せが続くと、多少の事では”今は幸せだ”と感じることができなくなる。いわゆる、感覚がマヒするのだ。
不幸を味わってこそ、幸せを感じ取れる。
この場合も同じことだった。
苦痛を与え続けるだけだと相手の感覚はマヒしはじめ、苦痛を苦痛だと感じなくなる。
つまりは、少しばかり回復したところでいたぶればいいだけのこと。
これが苦痛を最大限に引き出すフリーダのやり方だった。
「ケヘヘヘッ!! もう回復しちゃったァッ? じゃあもう一回閻魔様に会ってきなッ!!」
「……グボォ……ッ!?」
腹をかかえこむリュウのみぞおちにブーツのような固い靴のつま先がめり込んだ。
そのまま勢いよくナツミのほうへと吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ!? リュウ、しっかりしてっ!!」
「あんちゃんっ!!」
ナツミはリュウを受け止めた反動で尻もちをついてしまったがまったく構わなかった。ぐったりとうなだれるリュウの安否を必死になって確かめる。
急いでかけつけたライも肩を揺さぶってみたが彼の反応はない。
ただし、死んでなんかいなかった。
彼の身体も――――――彼の心も。
ゆらり、と、なけなしの力で立ち上がる。
ひざは笑うが、誰も笑わない。
前髪が風にたなびくが、芯は一切ブレない。
――――ただ一人、咆哮する。
「……炎竜鎧の術…………ッ!!!」
夕日の差す赤い空に、紅蓮の炎が立ち昇った。