悪しき因縁(1)
不意に現れた因縁深き宿敵・フリーダの挑発にリュウは我を忘れて暴走しかけた。
けれど、ナツミの一声によって意識を取り戻す。
模様の消えたマスクを顔からずらしひどく噴き出る汗をぬぐう。最初から最後までリュウの様子を眺めていた隣のライが心配そうに顔を覗き込んできた。
「あんた……大丈夫なのか?」
「……心配かけてすまねえ。もう問題はねえよ」
そうかとライはほっと肩の荷を下ろした。
しかし、とリュウが続ける。
「……安心するのはまだ早ェぜ。アイツを倒さないかぎりはな」
がんを飛ばすその先にいるのは退屈そうな表情をしたフリーダだった。
フリーダは右手の親指の爪で人差し指をいじりながら、
「おい。何か来るのかと期待していたんだが、どうやら的外れだったらしいな」
「……案外そうでもねえよ。あの力を使えばテメエなんて一殺だ。ただし、テメエにはもったいないから使わねえってだけよ」
「…………へえ。オモシレエこというじゃん」
指遊びをやめ、フリーダは腰を低くして耳元に届くまで口をニヤッとつり上げた。
ピリッと、緊張の糸が張り巡らされる。
この構え……きやがるな……。そう判断を下したリュウは背筋をのばし精錬された筋肉にほどよく力を加えた。
戦闘の直前、リュウはぼそりとライに声をかける。
「……なあ、ライ。お前、アイツとはどれくらいまで戦えてた?」
「三対七で押されてた感じかな……申し訳ないけど」
「……いいや、十分だ」
ザッ!!!
フリーダが姿勢を低くしたまま素早く動き出した。それはまさにヘビのごとく無駄のないモーションだ。
リュウはライに耳打ちした後、すぐに臨戦態勢をとった。
「……瞬風の術」
今となってはリュウの主要戦力となった『忍術』を用いる。『瞬風』は自身の生体活動を一時だけ高速化させる術だ。フリーダの動きについていくにはこれが必須となる。
しかしフリーダの特徴が速いだけとは限らない。
むしろ、それはあり得ないくらいだ。
つまり、速さを利用した何かで仕掛けてくる。
そう推測したリュウは重ねて術を発動した。
「炎加の術ッ」
ゴオオオッ!
リュウの両こぶしに炎が燃え上がり空気中の酸素が焦げて黒い煙が発した。例えばフリーダの能力が『速さ+怪力』だとするなら火力で押し返すことが出来る。
そうでなかったとしても、炎によってありとあらゆる能力に対応することが可能だ。
「……くらいやがれ、フリーダァァァッッ!!!!!」
姿勢を低くした状態で飛び込んでくるフリーダを上から抑え込むように炎拳を下す。
――――フリーダは舌なめずりをした。
「ケヘヘッ」
不快な笑い声がリュウの耳をなめる。
直後。
フリーダが左手を伸ばしリュウの炎拳に触れた瞬間彼の炎がパッと消えてしまった。もちろん術の発動を中断したわけじゃない。ブラックホールに吸収されたかのようにどこかへと消えてしまったのだ。
「……なんだ――ッ!?」
「かぁ~、ウマイねェ……ッ!」
「ッッ!!!」
意識が疑問に向かったその隙をつかれ、フリーダのアッパーがリュウを捉えた。