青道着の青年(3)
「おれはライ。ライってんだ」
「……ライ?」
リュウはその名前に聞き覚えがあった。たしかリコの昔話にでていたような…………。
あごに手を添えて深く考え込もうとするがそうするわけにもいかなかった。ライが飛んできた森の奥から、もう一人の人物が姿を現したからだ。
ザッとリュウとライの近くで着地しゾンビのように上半身を垂らしながら頭を上げる。
ボサッとしたネズミ色の長髪に鋭い眼光。
俺様こそがすべてだといわんばかりの雰囲気がにじみでている。
リュウはこの人物を知っていた。
――――いや。忘れたくても忘れられない宿敵。
「……テメェ、フリーダァ……ッ!!」
「アン?」
睨み返すフリーダがその瞳にリュウの姿を映すしだす。
同時に彼の口元がニヤリとつり上がった。
不快そのものともいえる笑い声をあげて、それはもう狂ったように腹を抱える。
「アハハハハッ!! お前、もしかしてあのリュウかッ!? のろまウシのリュ――――」
「口を閉じろよクソ野郎」
フツフツと怒りが込み上げてくる。
リュウの意識は沸騰寸前だった。
「……ヘェ。お前、いつからそんな大口を叩くようになったんだよ」
リュウの態度を確認し、フリーダが冷たい笑みを浮かべる。
それがまたリュウの熱をたぎらせた。
しかしフリーダは構わずに挑発を続ける。
中指を立てて、こう言った。
「かかってこいよ、出来損ないの欠陥品」
「……――――――ッッ!!!」
限界だった。
リュュウは瞬時に白いマスクに手をかける。
「ちょっ、あんちゃん!?」
隣のライが動揺しているがリュウは構う素振りを見せなかった。
かぶりきったマスクに表情のような模様が浮かび始める。
――――喜・怒・哀・楽。
どれにも当てはまるようで当てはまらない――その表情で。
リュウは、暴走する。
「――――リュウっ!!」
ただし、それはすぐに治まりをみせた。
「??……ナ、ナツミ……??????」
マスクの表情が雨に濡れたインクのように滲み薄れていく。意識を取り戻したリュウはマスクを外して声のするほうへ振り返った。
不安そうに佇んでいる少女が一人、そこに。
あぁ、そうだとリュウは思い出した。
いつだってこの少女のために生きてきたんじゃないか、と。