青道着の青年(2)
突如として現れた青い武道着姿の青年は自らをユウと名乗った。
「……リュウっ?」
「……ユウだよ、バカナツミ」
ユウの名前を聞き間違えたナツミがそう尋ね返すがリュウから訂正をうけた。バカといわれたナツミはプンスカ頬を膨らませる。
「バカとかいわなくてもいいじゃーん!」
「……うっせ。バカはバカなんだよ」
「もぉ~っ!」
地団太を踏むナツミに対しなぜこれほどまでからかってしまうのかはわからない。もしかすると、どこからかくるジェラシーというやつのなのかもしれない。当の本人は自覚していないのだが。
それよりも、とリュウは話題を移し替えた。
「……なあアンタ。変な質問をするが、いいか?」
「手短に頼もう」
今にも飛び出しそうなシャバーニの様子をうかがいながらユウは返事をとばす。
リュウは少しためらってから、こんなふうに言った。
「……アンタ、弟とかいたりしないか?」
「あぁ、とびっきりバカな愚弟なら一人」
その言葉を聞いて確信を持つ。
女湯をのぞこうとしてバカな顔を浮かべているアイツの姿が自然と浮かび上がった。
「……やっぱり、か。しかし、信じられない話だな」
「えっ。なになにリュウ? 何か思いついたの?」
「……なんでもねえよ」
教えてよーと指でグリグリつつくナツミ。傷だらけの身体をいじめるなとリュウは手を払った。
めり込んだ壁から体を動かすとガラガラと石灰の木っ端がこぼれていった。
ユウの隣にリュウはならび、ゴリラのシャバーニをにらみつける。
「お前、名前はリュウっていうんだよな」
「……アンタ、どうして」
「お前らの痴話げんかを聞いてりゃ分かるだろ」
「……誰が夫婦だコラ!」
「言ってない」
顔を真っ赤にさせて下からがんを飛ばすリュウ。
後ろで眺めているナツミは首をかしげていた。
「ともかくだ。お前、動けるか?」
「……アンタらの戦いにはついていけないが。ある程度ならいけるぜ」
「そうか」
そうユウは二つ返事してシャバーニに対し構えをとった。
右こぶしの腹を空に向け腰に当ていつでも攻撃をつかめるよう左手を半開きにして腕相撲のように突き出す。腰をかがめ足を開いたその構えは極致を得た武道家そのものだ。
彼はシャバーニから視線をそらさぬまま、リュウにこう伝える。
「俺の弟子が別の敵と戦っている。もうすぐここに来るはずだ」
「……なんだと?」
俺たちを助ける前までこいつらは別の敵を戦っていたのかとリュウは思考を巡らす。
とだえることなくユウは口を動かした。
「その敵は『革命軍』の幹部にあたるが、俺の目の前にいるゴリラより実力は劣るだろう」
「……アンタ、なんで『革命軍』のことまで知ってるんだ……?」
「後々(のちのち)話してやる。それよりもお前は俺の弟子の支援を頼む」
――――バッ!!
そう伝え終えた直後、ユウは足のバネを爆発させシャバーニとの戦闘に臨んだ。
「……な、なんだってんだよ」
状況をいまいち理解できていないリュウが珍しくもぽつりとつぶやく。
その時だった。
「ぐわぁッ!?」
近くの森の上空から一人の少年が吹き飛ばされてきたのだ。
「……アイツかッ!!」
ユウの弟子はあの少年だと瞬時に判断したリュウはコピーしたハナの技を用いる。
まわりの木々や葉が重なり合わせて大きなクッションを形成させた。ナツミが落下したときに使ったものと同じだ。
「うおっとっ!?」
突如として生まれたクッションに跳ね返され、少年は地面に臀部を強打する。
「いたたたっ」
お尻をさすりながら涙を浮かべる少年。
ちょっぴりトゲトゲした金髪のショートヘアに大きな碧い瞳。リコと同い年のような印象を受けるが、身体は幼いながらも引き締まっているようだ。
「……おい」
「な、なんだッ!? お前も敵かっ!?」
「……ちげえよバカ。俺はお前の味方だ」
「そうか! あんたらがユウの言っていた人たちなんだな!」
距離をとって身構えていた少年の緊張がほぐれる。こういうところは子供っぽいんだなとリュウはふと思った。
金髪の少年がリュウに手をさしのべて挨拶を求める。
「おれはライ。ライってんだ」
リコに似た満面の笑みで、少年は自らをそう名乗った。