青道着の青年(1)
「女性に手を出すとはどうかと思うぞ」
シャバーニの拳を受け止めナツミを守った青年が口を開く。
「…………何者だ、貴様」
おいどんの拳を止めるとはただ者ではない。
シャバーニは警戒心をむき出しにして一旦後方へと下がった。
拳をふりはらったその青年がナツミやリュウをかばうようにして位置をとる。
彼は笑うことなくこう言った。
「ただの人助けだ」
「……っ」
こちらを一瞥したその横顔をリュウはどこかで見たことがあるような気がした。
身近な存在の誰かにどことなく似ている気がする。
オールバックに近い逆立った髪型から一本だけ触角のように髪の毛が垂れ下がっている。目つきの鋭い眼光の奥底に大いなる知性が秘められているとリュウは直感した。
青色の武道着はどこかの戦闘民族を彷彿とさせる。
「…………なんでもいいでごわす」
「なにがだ」
「…………言葉あらずとも拳で語ればいい」
言葉と共にシャバーニが大きく前に飛び出した。
「……見えねえだとッ」
シャバーニのあまりの速さにリュウは息を呑んだ。
当然のことではあるが人間態のときよりも移動速度が増している。
「…………」
にも関わらず青い道着姿の青年が眉一つ動かすことはなかった。
「…………隙だらけでごわす……ッ!!」
懐へともぐりこんだシャバーニが地面からみぞおちを狙う。
アッパーの形で殴り込みが入った。
しかし――――、
「分かりきったことだろ?」
「――――ッ」
ガッ!!
青年は片足を瞬時に上げ脛の辺りで攻撃を受け止めた。
肉と肉がぶつかり合う音が鈍く響く。
「…………フンッ」
「お?」
シャバーニは即座に攻撃法を移し替えた。
腰にひねりを加えて足を振り上げる。下から上へと踵を当てる回し蹴りを繰り出した。
だがこれも、青年は右肘を曲げ左手を肘の内側にそえて腕の甲の部分で防いだ。
ゴッ!! と鈍い音が鳴り響くが青年の表情に苦痛の色はない。
「こんなものじゃないだろお前」
「…………ッ」
予想だにしなかった青年の余裕っぷりにシャバーニが言葉を失う。
少しあってから、
「…………くはっ」
「あん?」
「…………クハハハハハハハハハハッ!! 面白い、面白ぞ!! 今日はなんて素晴らしい一日なんだッ!!」
シャバーニは大口を開き腹を抱えて笑った。
「気持ち悪いやつだな、おい」
数歩距離をおき青年が苦々しく笑う。
それを眺めていたリュウが彼の背中に尋ねかけた。
「……なあアンタ。いったい何者なんだ?」
「俺か? 俺はだな――――」
「――――ユウだ。この世界の謎を追求する『冒険者』さ」
リュウはハッと思い出した。
この横顔はあのバカ――――ウシオに似ているんだ、と。