裏口での幕開け(2)
リュウが修行から戻ろうとしたとき、メイド部屋の窓が割れナツミが落下してきた。
それに続きもう一人の人物が窓から飛びだす。
意識のないリコを抱えた、その男の名はシャバーニ。
『革命軍』のメンバーにして、最強の漢。
「……テメェ、シャバーニッ!!」
「…………フンッ」
シャバーニはリュウを一瞥し鼻をならした。
いちいち癇に障る野郎だと、リュウは舌打ちする。
「おーいっ! リュウにナツミーっ!!」
上空から聞きなれた声が飛んでくる。
空を見上げると割れた窓からアールが顔を出して手を振っていた。
「そいつ、いきなり私たちの部屋の壁をつきやぶってリコちゃんを連れ去っていったの!!」
「何とか守ろうと立ち向かったんだけど、あっさり突き飛ばされちゃって!」
アールの話をフォローするようにナツミが説明をくわえる。
彼女たちの話を聞いて、何が起こったのか合点がいった。
何の理由でリコを誘拐しようとしたのかは知らない。
ただ、やることは一つだけだ。
「……テメエをぶっ倒す…………ッ!!」
ドバッ!! とリュウは勢いよく大地を蹴り飛ばした。
猛スピードでシャバーニに近づいていく。
懐にもぐりこむ直前で、袖口から双剣をとりだす。
お手玉のようにそれらを空中に放り印をくんだ。
「……炎加の術ッ!」
パシッと受け取った瞬間、双剣に炎が纏わりつく。
空気の焼けた匂いを鼻孔で感じながらシャバーニの腕を切り裂いた。
しかし、シャバーニは後方へと下がり攻撃をなんなく避ける。
「……まだまだッ!」
リュウはさらに一歩踏み出す。
その際、彼はナツミに目配せをおくった。
彼女は一瞬きょとんとしたが、すぐに意図を理解する。
「……瞬烈風の術」
シュバッ!!
自身の動きを加速させる術を発動し一気に間をつめた。
不意をつく攻撃パターンである。
「…………ッ」
シャバーニの眉が微かに動く。
だが、その冷たい表情が崩れることは無かった。
「……オラアアアアアアアアアッ!!」
「…………ふんぬッ!」
シャバーニは腰をひねり双剣をねらって足を振った。
パシイッ!! と強い衝撃に双剣が手から離れてしまう。
――――だが、これも想定内だ。
リュウの第一の狙いはリコの奪還。
そのために一瞬だけでもシャバーニの気をそらす必要があった。
「届けぇぇぇぇぇぇぇぇ~っ!!」
「…………なんだとッ!?」
今度こそ、シャバーニの表情が崩れる。
双剣を蹴りとばしたことでシャバーニは身動きが取れない状態にいる。
その隙をついて、ナツミが手錠を飛ばしたのだ。
それは見事に命中し、シャバーニのず太い両腕にはまる。
ガチャガチャッ!!
リコが腕の中にいることでシャバーニは思うように力を出すことが出来ずにいた。
「……返してもらうぜ!!」
リュウはとびだしシャバーニの腕からリコを奪い返すことに成功した。
バックステップをとり十分な距離をおく。
「……ふう。どうやら気を失っているだけらしい」
「よかった~!」
リュウの腕の中で眠るリコの寝顔を見て、二人はホッと胸を下ろした。
「リュウーっ! ナツミーっ!」
「あっ! アール~!」
メイド部屋から駆けつけてきたアールが王宮の裏口から姿をあらわした。
その後ろにはビイもいる。
「リコちゃんじゃない! 無事なの!?」
「うん! リュウと私でなんとかね!!」
「さっすがーっ!」
アールとナツミは腕をかかげハイタッチを交わした。
ただ、安心するのはまだ早い。
ガシャンッと、金属の壊れる音が響く。シャバーニがナツミの手錠を力づくで破壊したのだ。
ユラリユラリと、陽炎のように彼は態勢を整える。
「……アール。リコを頼む」
「わかった!」
すやすやと眠るリコを手渡しリュウも戦闘態勢をとった。
「私もいるからねリュウ~!」
「……あぁ。頼りにしてるぜ」
シャバーニから猛風のようなプレッシャーを感じる。少しでも気を抜けば倒れてしまいそうだ。
ただ、彼らがたじろぐことはなかった。
宿敵が、呟く。
「…………作戦を実行する」