裏口での幕開け(1)
『能力進化』
それは『冒険者』のみが行える、文字通り能力を強化させる方法。
黒の衣服に身を包んだウシオは『忍者』×『暗殺者』に。
囚人だったリュウは『囚人』×『怪盗』に。
女警察官だったナツミは『探偵』になった。
とはいっても、新たな能力を得るだけが『能力進化』ではない。
イネのように、所有する能力の大幅な強化である場合もあり得る。
「……ふう。今日はこのくらいにしておくか」
二日目の修行も終え、リュウは肩から力を抜く。
近いうちに刃を交わすであろう『革命軍』。メンバーの中にはシャバーニのように強力な敵がいるかもしれない。
そいつらに対抗する最も有効的な手段。
「……ランクアップか」
両手を後頭部に重ね、顔を上に向ける。雲からもれる夕日の光が真っ白な城を彩っているに気がついた。
この二日、リュウは修行を続けている。詳細に語れば彼は『怪盗』の能力を使いこなせるような訓練を行っていた。
頭から手を離し自身の右こぶしを握りしめる。
俺は強くなったと、リュウは確信をもった。
ただ個人の強さには限界がある。
結局、リュウ一人の力ではどうしようもないのだ。
「……アイツら、いったいどこにいやがんだよ」
散らばってしまった仲間たち。
気に入らないが、アイツらがいれば百人力だ。
「……まぁ、どうせもうじき来やがるだろうがな」
ウシオとイネはハナが王宮にいることを知っている。
アイツらと離れてから五日くらい経つ。
そろそろ頃合いだ。
しかし一方で、シオンについてはいまだに行方不明のまま。
王宮が眠りにつく真夜中リュウたちは彼を探しているのだが見つかっていない。
「……ウシオたちと合流するのが先か、はたまたシオンを見つけるのが先か」
――――それとも。
そこまで考えて最悪の事態は起こっていないだろうと推測する。
『革命軍』はシオンを殺すことで、革命を成し遂げる。
最初はそう思っていた。
だとすれば、どうも引っ掛かりを覚えるのだ。
理由の根拠を一つ挙げるとすればシャバーニがその場でシオンを殺さなかった事実。
生け捕りにする必要があるのだとすると公開処刑あたりだろう。
「……だが、それは行われていない」
つまり、シオンはまだ生きていることになる。
「……とはいっても時間がないのは確かだな」
拳に入る力がより強くなる。
勝たなくちゃ、誰も幸せになれねえ。
決意を新たに固めた――――そのとき。
パリイイイィィィィィイイインンッッ!!
「……なんだッ!!?」
「きゃああああああっ!!」
メイド部屋あたりの窓が砕け散り、ガラスの欠片が空から降り注いだ。
伴って、一人の人物が重力に従い急降下してくる。
ディアストーカーをかぶった探偵の少女――――ナツミだ。
「……クソッタレッ!!」
リュウは大地を蹴りナツミの真下で構える。
シュババババババッ!!
リュウはハナの技をコピーし周りの植物を操った。
「……ハアァァァアアアアアッ!!」
シュルルルルと大きな葉が一点に集中しクッションが作り出される。ハナほどではないが、女の子一人を受け止められるくらいにはなった。
クッションに衝撃が吸収され作用反作用の法則がはたらく。
少しばかり高い位置までナツミが跳ね返ったところで、
「……大丈夫か、ナツミ」
「リュウ……っ!!」
彼は空中でナツミをうけとめ見事に着地した。
彼女を立ち上がらせ、何が起こったのか説明を求める――――その直前で。
割れた窓から影が飛び出す。
それは、一人の男であった。
屈強な身体に、傷だらけの肌。黒い短髪に片目の大きな傷痕からは百戦錬磨の軍人を彷彿させる。彼の腕の中には気を失った少女が。
金髪の二つくくりに白黒の斑点模様がはいったモフモフの部屋着。以前はバスガイド服だったがメイドたちによって子供らしい衣服に着せ替えられた。
彼女の名はリコ。
そして、その漢の名は――――
「……シャバーニッッ!!」
「…………フン」
宿敵が今、目の前に。