子猫のお目覚め(3)
「あちちっ」
「どうしたんですの、リコ?」
カップのホットミルクに口をつけたリコちゃんがビクリと身体をのけぞる。
現在、『冒険者』三人とリコ、それにメイドの三人でテーブルを囲んでいた。いわゆる優雅な午後のてぃーたいむというやつだ。
「そんなに熱かった? 私はふつ~なんだけどなぁ」
「カップをさわった感じはだいじょうぶだったんですけど……」
首をかしげながらリコはふうふうとミルクの熱を冷まそうとする。とがった唇から吹き出す風がカップの内に波をたてた。
「……猫舌にでもなったのかもな」
「うぅ……」
今までなかったことにリコちゃんがしょんぼりと肩を落とす。
「猫舌といえば、私は猫派かな~!」
「えー! 絶対犬だってば!」
ひょんなことから、ナツミとアールの大論争が幕を開けんとする。先を見据えたリュウとハナが思わずため息をついた。
「猫のむすっとしたあの表情がなんともいえないんだよ~!」
「でも猫にはあのモフモフ感がないじゃんっ! ワンちゃんはぬいぐるみみたいに気持ちいいの!」
「ぬいぐるみはぬいぐるみで我慢しなよ~!」
「「むぐぐぐぐぐ~っ!」」
おでこを重ね合わせ鼻先がつかんとばかりに顔を近づけあう二人。
誰もこの勢いを止められない――――と思われたが。
「……ちなみにあたしはヘビちゃん派……」
「「へびなんて嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」」
突拍子もないビイの発言にナツミとアールが息を合わせて声を荒げた。
リコを中心にぎゃあぎゃあ騒ぐ三人は放っておいて。
リュウが席から腰を上げ、外につながる扉のほうへ歩きだす。
「どこにいくんですの? お昼の今は王宮の人々がまだ活動していますわ」
外出しようとするリュウにハナが注意をよびかける。
しかし、彼は分かっていると頷いてこう言った。
「……王宮の裏口あたりで修行するから問題ねえよ。なぁ、リン」
「ええ、構いませんわ」
ハナの隣でお茶をすするリンが上品に答えた。
「一応、気をつけてくださいね」
「……おう」
ハナの最後の忠告を耳にして、リュウは扉をくぐり抜ける。
王宮に『革命軍』が潜んでいる。いつどこで襲撃してくるかわからない。
つまり、彼女の忠告はそういった事を意味してるのだろう。
「…………やるか」
目的地にたどりつき、念のために人がいないかを確認した後リュウは気持ちを切り替えた。
この二日間、彼はずっと修行に打ち込んでいる。強靭無敵のシャバーニに勝つための打開策。
その一つとして――――リュウはズらしていた『顔なしマスク』をつけた。