子猫のお目覚め(1)
リュウやナツミ、ハナが王宮のメイドたちと過ごして二日目の昼。
それは前触れもなく訪れた。
「リコちゃんが起きた!!」
修行を終え、一時メイドの部屋で体を休めていたリュウに朗報が届く。リュウは勢いよく腰をあげリコの眠るベッドへと駆け出した。
「むにゃ……? リュウお兄ちゃん?」
久しぶりに聞く彼女の声にリュウたちの心がじんわり熱くなる。『人体実験場』のカプセルからリコを救い出して以降、彼女はずっと眠ったままだった。
「……リ、リコ。身体は何ともないのか…………?」
「からだです?」
ベッドで上体を起こしているリコが自身の身体を確認してキョトンとする。どうやらどこにも異常はなさそうだ。
元気なリコの姿にリュウたちはそれぞれ安堵の息をついた。
これでひとまず心配事が一つ消えることになる。
「どうしたんです、お兄ちゃんたち?」
「……いや、何もないならそれでいい」
リコは『人体実験場』のような場所に監禁されていた。他のカプセルにも何人もの人間が閉じ込められていたことを思い出す。
そして数人の身体に――――とある変化がもたらされた。
リュウはそのことを一番に恐れていた。リコにも同様の変化がおとずれないかどうか。
ただし、それは杞憂に終わったようだ。
「ねえ、リュウ。リコちゃんを変な目で見てない……?」
「……なんでだよッ!?」
「ア、アンタっ! こんな小さな子にまで……ッ!!」
「……ち、違うッ!! あれはたまたま……」
ナツミの隣に立つ赤髪メイドのアールが戦々恐々と震えている。
「アール、何かあったの?」
「そ、それがねっ! リュウってば昨日の夜――――」
アールが語り出すその一方で、リュウはひっそりとその場から離れようと忍び足を踏む。
昨日の夜ことだ。
体力兼精神エネルギー回復のためリュウは王宮内の温泉にむかっていた。もちろん王宮が静まり返った夜中である。
方向音痴の彼であったがなんとかしてたどり着くことに成功しのれんをくぐり抜ける。
が、目の前に広がったのは無人の脱衣所ではなかった。
「「え???」」
そこで、三人のメイドさんが仲良く話していた。
緑髪のリンと青髪のビイはバスタオルを巻いている。ただし、アールはその肢体があらわになっていて。
お風呂上がりなのだろうか。
身体からは白い蒸気が立ち昇り、ほんのりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。濡れた赤髪の張りついた裸体が妖しい魅惑をかもしだす。
ツー………
「―――あ……」
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「……げぼぁッ!!?」
こちらに突っ走ってきたアールに勢いよくドロップキックをお見舞いされたのだ。
――――方向音痴もここまでくれば神業か。
ウシオやシオンが欲しがるだろうな、なんて飛ばされながら思うリュウだった。