王の帰郷(2)
「やあ」
その存在を認識するのに何秒かかったろう。
気づけばやつはそこにいた。
黒装束を全身に纏い、深くまでフードをかぶりこんでいる。
名はクロ。
オレが王だった頃の世話人でありながら、『革命軍』に身を置いている人物。
ただのメンバー、幹部、もしくは総指揮者。
能力、素性、何もかもが不明な底知れぬ男。
「…………いつの間に」
「私は影であり闇だ。故どこにでも存在しているし、いつ何時でも現れる」
何を言っているのかわからない。もしもウシオがこういった発言をしたのなら、オレは思わず吹き出していたに違いない。リュウなんか捧腹絶倒に決まってる。
だけど、この男の言葉には重みがあり、厚みがあった。
――――正体不明の闇。
言い得て妙だ。
これ以外に彼を表す言葉が見つからない。
「……オレに何の用だ」
「いやはや何を言い出すのかと思えば。くくっ、君も鈍いんだね」
クロが手袋で覆われた拳を口元にあて、笑いをこらえる。
その動作が余計にオレの焦燥感をくすぐった。
ギリっと、歯ぎしりの音が口内で響く。
コイツはここで倒しておくべき危険人物だッ!
シュバ、バ、バ、バ
はめられた拘束具のせいで印を組む速度が落ちる。
だが、何とか組み終えることができた。
両腕を引いて、一気に突き出す。
「滅・光雷撃の術!!」
バリバリバリバリバリバリッッッ!!!
目が眩むばかりの電撃が暗い部屋を駆け抜けた――――――はずだった。
「あ…………?」
実際のところ、突き出す手の平からは何も生まれていない。
つまり、術が発動していないのだ。
「な、なんで……?」
虚しく、反響する。