王の帰郷(1)
――――兄さん。
「は……っ!?」
誰かにそう呼ばれた気がして、オレは目を覚ました。ハアハアと息を荒げ、あごに滴る汗をぬぐう。
ジャラリ……っ
「……なんだこれ?」
汗をぬぐった腕は鎖に繋がれていた。その先には鉛玉がついている。
ここでようやく、オレは拉致されたことを思い出した。
シャバーニという大男にとらわれ、気が付けばここにいた。
しかし、これもあくまで作戦のうち。わざと負けることで、オレたちは王宮の内部へと侵入することが出来る。現にオレがいるここは王宮内のはずだ。
薄暗くてよくは見えないが、ここはどうやら王室らしい。
オレが眠っていたベッドのふかふかとした手触りが物語っている。
「でも、どうしてオレだけこんな場所に?」
視界が暗闇に慣れてきたので、オレはベッドから這い出た。
ジャラリと四肢から金属音が鳴る。四つの鉛玉が行動を制限するが、動けない程度でもない。
「懐かしいな……」
ここはオレが王だった頃にいた場所。
小学校のプール並みの長さを誇るテーブル。
貴金属で飾られた壁面や天井。
ここで執事のギンや三人のメイドさんたちと仲良く過ごしたものだ。
「あいつら…………今頃何してるのかな?」
今でも同じ仕事をしているのだとしたら、この王宮のどこかで眠っているんだろう。
――――会いたい。
ただ、そう思った。
目頭が熱くなるのを感じる。
何かをこらえる中、ふと、ある物が視界に入ってきた。
「これって…………?」
半透明な物質でできた直方体の容器。飲み物をいれるのに適した形をしてるそれの中で、黒い液体が気泡を生んでいる。
容器の外側にはられたラベルには、手書きでこう書かれていた。
『コーク』
この文字を目にして、ある女の子の顔が浮かぶ。
赤い髪にショートヘア。強気ながらも正直になれない不器用な女の子。
「…………アール」
オレは無意識に、それを手に取ろうとしていた。
途中で、はっと我に返る。
「こんな場合じゃない。はやく作戦にうつらないと」
周りにリュウやナツミはいない。
もしかすると、牢屋らしき場所に閉じ込められているのかもしれない。
「まずは合流からかな」
ベッドに戻り、邪魔な拘束具を外そうと試みる。
瞬間だった。
「やあ」
瞬きをした、その次の景色の中に、
―――――黒装束をまとった男・クロがいた。