王の夢
優しい夢を見た。
そこはどこだかわからないけど、すごく温かい場所で。
オレは果てしなく続く真っ白な場所に漂っている。
白い忍者服と銀髪が、今にも景色に溶け込んでしまいそうだ。
――シオン。
オレを呼ぶ声が耳に入った。
まどろもうとする気持ちに抗いながら、重たいまぶたをあげる。
――あぁ、ハナじゃないか……。
オレの目の前には、手をさしのべてくる大好きなハナがいた。
一度も向けてくれたことがない、笑顔をうかべて。
けれど、どこか様子がおかしい。
向日葵を連想させるイエローを基調としたドレスが、ワインレッドに変わっている。まるで、どす黒い血で染まってしまったかのように。
――どうしたの、ハナ。何かあった?
そう言おうと口を動かしたが――――声が出ない。いくら口を動かして、舌をまわしても、いっこうに言葉がうまれない。エサを求める金魚のような、滑稽な行動。
だけどオレには、それで精一杯だった。
――そうだ。手をつかもう。
差しのべられてる手を掴んで、離さないでおけば。そうすれば、言葉を取り戻すまで一緒にいられる。
オレは、一生懸命に右腕をのばした。
ハナの手まであと少し足りない。
プルプルと震えるほどに、手を伸ばす。
指先と指先がふれた。
――もう少し……!
花びら一枚分伸ばせば手をつかめる。
そこまできたところで。
ハナの手が遠くへと離れていった。
――あ……。
彼女は笑顔のまま腕をひっこめた。
それから流れるように背をむける。
その先に、いつの間にか。
――――ニヤリと笑う、黒髪のオレがいた。