恥ずかしがり屋の子犬(2)
なぜだか僕たちのことを避けるヒナタちゃん。
彼女の心のかべを取り除くため、執事のギンが勇気の剣を引き抜いた。
凛々しい面持ちで、障子からのぞいているヒナタちゃんに近づく。
「ねぇ、アミちゃん」
「おっ、どうしたとね?」
「今のギンって男かな? 女かな?」
ピンと伸びるギンの背中を見送りながら僕はふと素朴な疑問をもった。
ギンは男にも女にも身体を変化させられる。見た目の違いがあまりないため、今がどちらの性別かわからなくなるのだ。
質問をうけたアミちゃんは興味がないと言わんばかりに空返事する。
「あー、おっぱいがないから男だねー。つまらないなー」
「そ、そっすか……」
おっぱいに目がないアミちゃんにとって、ギンの見分け方はおっぱいらしい。
「…………」
「な、なにコーくんっ? どうしてわたしを見つめてくるのっ?」
無意識のうちにイッちゃんに視線をうつしていた。
正確には、その豊かなお胸様に。
おっぱいが正義。
――うむ…………ッ!!
この世の理を再確認していると、アミちゃんが仙人のような仕草で顔を寄せてきた。
「ウシオ少年。おぬしもわかってきたようじゃのう」
「アミ長老こそ。さすがでござります」
「「うぉーほぉっほぉっほぉ……っ!」」
「二人ともっ、ギンさん、うまくいってるみたいだけど……?」
「「なんだってッ!!?」」
イッちゃんの言葉に僕らはすぐさまギンのほうに向いた。
彼女の言う通り、ギンとヒナタちゃんは仲良さげに楽しんでいるみたいだ。
う、うそだ……。
僕やアミちゃんはダメだったのに、なんで……?
同じことを思っているらしいアミちゃんが、僕のそでを引っ張った。
「ウシオくん、現実は非情だね……」
「え……?」
言っていることがいまいち理解できない……。
どういうことだろう?
「ほらっ、ヒナタちゃんの顔をみてごらん」
アミちゃんの指につられ、僕は自然とヒナタちゃんの表情を目にする。
そして、一言。
「あの顔はイケメンに心惹かれてる乙女の顔じゃよ」
「僕がイケメンじゃないってことかチキショォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオッッ!!!」
「「っ!?」」
僕の悲痛な叫び声が部屋中に轟く。
突然の奇声に、アミちゃんどころか、ギンやヒナタちゃんまで驚いていた。
「ちょっとウシオさんっ! 急に大声をだすとヒナタちゃんがおびえるでしょう!!」
背中に隠れるヒナタちゃんをかばいながら、ギンが怒声をはなつ。
しかし僕はなぜだかその姿が気に入らなくて反論した。
「仕方ないじゃないか! だって僕はイケメンじゃないんだもの……ッ!!」
いや、ただの戯言でした。
うっうっとマジ泣きする僕に、さすがのギンも言葉を呑み込む。
彼は恐る恐るといった調子で会話を続けた。
「だ、第一、ヒナタちゃんは私がイケメンだから心を開いているわけではないでしょう?」
「はい今自分でイケメンって認めましたぁー! ナルシストだーい!」
「コーくん……っ」
「ウシオくん……」
ダメだ。みんなが悲しい目で見てくるよ。
なんだかもう雪に埋もれたくなってきたところで、ギンがある提案を出してきた。
「わかりました。ヒナタちゃんの選んだ理由がイケメンではないことを証明してみせましょう」
ギンが少しばかり力を入れた瞬間、彼女の肩はまるくなり、顔つきも少しずつ幼くなっていった。
そして、トドメといわんばかりに、
「「ちっぱいが降臨なさった…………ッ!!」」
「殺すぞ」
「「ごめんなさい」」
まさに流れるベルトコンベヤーのようなやりとり。
それはさておきイケメンから美女となったギンがコホンと咳ばらいする。
「見ていてください。イケメンでなくとも、ヒナタちゃんは私に心を開いてくれるので――――」
――――ピシャ……っ。
「…………うぅ」
「わかる、わかるよその気持ち。私も同じだったもん」
「僕なんか何もしなくとも拒絶だからね。気にしないほうがいい」
見事に沈没した同士に僕らは肩を叩いて激励を送った。