恥ずかしがり屋な子犬(1)
「わたし、おかあさんとはなれなきゃいけないの……?」
障子のすきまからのぞき込む小さな影。
その正体は眠っているはずのヒナタちゃんだった。
「ヒナタちゃん、目を覚ましたんだねっ!」
「よかったぁー。私、心配だったんだよー?」
「そうですね。意識が戻ってなによりです」
ヒナタちゃんの姿を見て、みな口々に安堵の息をもらした。
しかし、僕だけが違和感を覚える。
「ヒナタちゃん……?」
僕は立ち上がり、彼女のもとへと近寄った。
すると、
「……っ!」
ピシャ……ァっ!!
障子が勢いよくしめられ、ヒナタちゃんは僕を拒絶した。
「……へ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
イッちゃんたちも目を丸くしていた。
ややあって、
「……」
――スッ
閉められた障子の反対側が少しばかり開き、ヒナタちゃんがこちらの様子をうかがってきた。
なんのことだか分からない僕はとりあえず会話をはかろうと試してみる。
「あ、あの……ヒナタちゃん?」
「……っ!!」
ピッシャアア……ッ!!
……ものすんごい勢いで、また閉められた。
こ、これって……?
「僕、嫌われてる……?」
「嫌われてますね」
「嫌われてるね」
「あ、あはは……っ」
「な、なしてぇぇぇぇええええええっ!?」
想像だにしなかった出来事にマイハートがブロークンブロークンだ!!
「もしかすると、獣人の記憶が残っているのかもしれませんね」
「ウシオくん、獣人のヒナタちゃんにひどいことしたんじゃないのー?」
「そ、それで避けられてるのかも……っ?」
いわれてみれば……獣人のヒナタちゃんには散々なことをしたかもしれない。土の棺桶に封じ込めたりだとか、電気でビリビリしたりだとか、底なし沼に沈めたりだとか…………。
「いやでもそれってヒナタちゃんを助けようとして……っ!!」
「本人にとってはトラウマですからね」
「知らないお兄さんにいじめられてねー」
「バ、バカな……っ!?」
こんなに報われないことってありますか……?
……まぁ、ヒナタちゃんを助けられたんだしそれでいいんだけどさ。
そうこうしていると、再び障子が開いた。
「……」
相も変わらず、僕のことを警戒しているようだ。
と、ここで一人の人物が立ち上がった。
「はーい! じゃあ私がいくねー!」
「ア、アミちゃん……」
勇敢なる者の名は、アミちゃん。
彼女はその薄い胸をはり宣言する。
「私にまかせてよ! こんなに優しそうなお姉さんだったらヒナタちゃんも心を許してくれ――――」
――――ピシャっ!!
「………Oh」
勝負は一瞬だった。
「燃え尽きたぜ、真っ白にな…………」
その場でひざから崩れたアミちゃんは灰のように消えていく。
そして再び、障子が開かれた。
「(じー……っ)」
顔を半分出して、こちらを見つめてくるヒナタちゃん。
「わかりました。では私が行って参ります」
「ギン……っ!」
この男なら(――いや、今は女だね)、なんとかしてくれるに違いない!
ギンは凛々しく立ち上がり、ヒナタちゃんのもとへ歩み寄っていった。
→ To be continued ……