蛇足はよろしくない(1)
「この世界に『獣人』を治せる薬は”まだ”ないんだ」
「……つまり、近い将来には存在しているとおっしゃりたいのですか?」
「その通りだよギン! 『獣人』を治せる薬は作れるようになるんだ!」
発言の意図を察したギンにズビシィッと指をさす。
けれど彼女は、僕の意見をまっこうから否定した。
「ありえませんよ、ウシオさん。そんな薬が作れるのならとっくの昔にできあがっています」
「どうしてそんなことが言えるのさ?」
ギンの主張に対し、僕は少しばかり挑発的な態度でのぞむ。
彼女は『王宮』に仕える執事として、建設的な意見を述べた。
「『獣人』はこの世界で一番の問題といっても過言ではありません。我々『王宮』が、力づくで対処するのがやっとなんです」
「薬をつくって対処すればいいんじゃないの?」
「だから、それができないから困っているので――――――」
彼女の言葉をつむぐ唇が、はっと止まる。
どうやら僕の発言の真なる意図に気がついたらしい。
「ねーねー二人とも。私、ちっともわからないんだけど……」
「コーくんっ。わたしもかな……っ」
アミちゃんとイッちゃんはまだ困惑してるようだ。
僕も遠回しな言い方をしちゃったしなぁ。よし、丁寧に説明するとしますか。
含みのある言い方を反省しつつ、僕はちょっとキメ顔で話し出す。
「ふっ、実はこの――――」
「このお話には、二つの意味が隠されているんです」
「ちょっとギンさん!?」
カッコつけたその瞬間、ギンに台詞をかぶせられた。
イッちゃんはポカンとしてるけど、アミちゃんはくすくす笑っている。
は、恥ずかしい……ッ!!
「おや、失礼しましたウシオさん。どうぞ、お話しください」
「…………あ、はい」
ひょ、拍子抜けした気分だ。ここから始めるのはちょっと気まずい。
とはいってもギンに話してもらう雰囲気でもないので、僕は仕方なく説明を始めた。
「えっとね、僕が発言したのには二つの意味があるんだ」
「発言って、『獣人』を治す薬はまだないっていうやつ?」
「そう、それそれ」
「……?」
いまいちわかっていないイッちゃんが可愛らしく首をかしげる。
「アミちゃんの言う通り、一つ目の意味はそのままなんだ」
「『獣人』を治す薬はまだないってことですね」
ギンが確認するように言葉を付け加える。
「でもさー、そのほかに意味なんてあるの?」
「うーん…………直接は関係ないのかも」
「えー! もー意味がわからないよ!」
「あ、あはは……ごめんね」
また遠回しな言い方をしちゃったのかもなぁ。いつからこんな話し方になったのだろうと、ほんのちょっと不思議に思う。これを蛇足っていうのかなぁ? 無駄話が多いというか、なんというか。
「ウシオさん。もう単刀直入に言ったほうがよろしいのでは……」
「そうだね……そうするよ」
ギンの催促もあって僕は包み隠さず話すことにした。
「僕の言いたかったことはね――――『王宮』の内部で薬の研究が進められてるんじゃないかってこと」