獣娘を誘拐しました(3)
アミちゃんの何気ない発想に、僕は目を大きく見開いた。
「それだ! それだよアミちゃん……ッ!」
「え? え?」
まくしたてる僕だが、アミちゃんは上の空のようだ。
勢いはとどまることなく続く。
「獣人を治す薬は現状じゃ存在しない。そうだよね、イッちゃん?」
「う、うんっ」
「でも、獣人のことをもっとよく調べたら作れるんじゃないかな?」
「うーんっ。すっごい時間はかかるだろうけど……できないことはないと思うよっ」
薬や治療を専門とする彼女の言葉を聞いて確信を持った。
フリーダと呼ばれたオオカミのような男と、ピンク髪に黒いワンピースのメンゲルという女は何者なのか。突如現れた二人組がなぜ、ヒナタちゃんを完全な獣人にさせたのか。どうして、そんな薬をもっていたのか。
すべての疑問に合点がいく。
「どうされたのですか、ウシオさん。いつになく気持ち悪いですよ?」
「一人でニヤニヤは、さすがにねぇ……?」
最近ギンやアミちゃんの態度にトゲを感じる。
どうやら僕のあつかい方がわかってきたらしい。
「あ、あはは……っ」
唯一の味方・ナースのイッちゃんでさえ苦笑いをうかべていた。
一人で勝手にニヤける僕の姿は、想像以上にキモイらしい。ハートにズキリときた。
いやいや、僕だってただの変態じゃないんだ。デキる変態っていうのを証明してやる。
汚名返上・名誉挽回のため、僕は見つけた真実を告げる。
「みんな、聞いてほしい。『獣人を治せる薬』はまだないんだ」
「そんなこと、誰もが周知しています」
「さ、さっきまでお話してたことだよっ?」
「ウシオくんってば理解できてないんだー。おっくれってるー!」
しまった!
つい先走って結論だけを口にしてもうた。
「っていうか、みんなひどいなオイ! 僕だってそれくらい分かってるよ!」
「では、結局何を伝えたいので?」
「おバカなウシオくんじゃあーねー」
「あ……あはは…………っ」
「もぉぉぉぉぉぉぉーー!!」
この場の流れが完全にもっていかれてる! 意見を言おうとするのが、ちょうど海の波に向かって泳ぐみたいだ。
深呼吸し調子が乱れないように意識する。
これから言うことは大切なことだから、このまま押し返されるわけにはいかない。
僕は、ゆっくりとした口調で同じセリフを語りかけた。
「この世界に『獣人』を治せる薬はまだないんだ――――まだ、ないんだよ」