獣娘を誘拐しました(2)
獣人となったヒナタちゃんを救い、重傷だった母親の手当ても無事に済ませた。
今は僕たちの隣の部屋ですやすや眠っている。
どうして彼女たちと出会うことになったのか。
僕は話を切り出した。
「きっかけはね、とある奇妙な一軒家だったんだ」
「それは……どのようなもので?」
ギンがあごをしゃくりながら尋ねてくる。
僕は見たことすべて、ありのままに話した。
『獣人』に感染した住人の家に、呪いのお札のような無数の張り紙があったこと。
ヒナタちゃんたち親子の、悲惨なやりとりや絶望。
獣人へと姿を変え、母親を攻撃して逃亡したヒナタちゃんのこと。
そして――――素性不明の、二人組の男女の話を。
「突然あらわれ、途端に去っていったのですか」
「嵐のようだね……その人たちは具体的に何をしたの?」
アミちゃんが率直な疑問を投げかけてくる。
思い返すだけで、はらわたが煮えたぎってきた。
……あいつらは…………ッ!
「コーくん……っ?」
「……え? あ、ごめんっ! つい感情的になっちゃって…………」
「ううんっ。続けて大丈夫だよっ」
イッちゃんの優しい思いやりに感謝しながら気持ちを静める。
平静を保って、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「あいつらはね、自我を守ろうとして懸命に闘っていたヒナタちゃんの想いをぶち壊したんだ」
僕は出来る限り詳細に何があったのかを説明した。
獣人となったヒナタちゃんには、まだ『人間』の心が残っていて。人を傷つけんとする『獣人』の心に負けまいと闘い続けて。
あいつらは、そんなヒナタちゃんの努力をないがしろにした。
「非道ですね……」
「私、ぜったい許してやらないっ! ヒナタちゃんがかわいそう……!」
「……わたしもっ。人の命を、人の想いを、弄ぶのは絶対にダメっ」
珍しいことにイッちゃんまでもが腹の底から怒りを覚えているようだ。
それは例えば、美味しく食べてもらえるように朝から早起きして作ったお母さんの手作り弁当をごみ箱に捨てるようなもので。
もしかするとそれは、忙しいお母さんのためにつくった料理が、朝になっても冷めたラップに包まれているようなもので。
誰かを想う気持ちを踏みにじることは、『人間』を捨てることである。
『人間』を捨てたならば、それはもう『獣』以外の何物でもない。
「それにしても……ヒナタちゃんを完全な獣人にした薬、気になりますね」
「わたしも引っかかってたのっ。そんな薬があるだなんて……っ」
ポツリとこぼしたギンの言葉をイッちゃんがひろう。
僕もずっと気にかかっていた。
『獣人』っていうのは自然的現象であって、いわゆる『病気』に近い。決して、人工的なものではない。
どんな薬なのかを憶測する中、不意にアミちゃんが呟いた。
「『獣人』を悪化させる薬があるなら、治す薬もあるでしょ」
「――――――――――」
アミちゃんの何気ない発想に、僕は目を大きく見開く。