獣に抗う者たち(4)
イッちゃんたちと合流し、あとは薬の完成を待つだけとなった。
イヌの獣人と化したヒナタちゃんを救える唯一の方法。完全には治らないかもしれないが、これしか道は残されていない。
「私が囮となります。ウシオさんは彼女を拘束する機会をうかがってください!」
「了解だよ、ギン!」
「ワォォォオオオオンッ!」
ギンが間合いをつめ、接近戦に入る。
一方で僕はヒナタちゃんの周囲からスキをうかがった。
「『つるぎの舞』……ッ!!」
ギンが二本の短刀を生み出し、攻撃をしかける。ただし、あくまでも足止めを念頭に置いた動きだった。何の罪もないヒナタちゃんを傷つけるのが嫌だったのだろう。僕も同じ気持ちでここまできたから、すぐに理解できた。
「はぁ……っ!!」
二本の短刀を手にカマキリのように構える。
一歩踏み出して相手の懐へとギンは飛び込んだ。
腕を交差させる形で斬りかかる。もちろん傷つける気持ちは毛頭ない。
ヒナタちゃんはギンの想定したように後ろへと飛び跳ねた。
ギンの口元がにやりと歪む。
まるで、読み通りだとでもいうように。
「変化・銃撃態」
彼がつぶやいた瞬間、瞳の色が青から赤へと変化した。
男から女へ。
彼から彼女に変わったのだ。
女となったギンが短刀を捨て、新しい武器を生成する。
彼女は二丁のマグナムを握りしめていた。マッド調の黒で彩られた銃。トリガーと全体をまたぐラインの模様が、LEDのように黄色い光を放つ。
「閃光の守護!」
バンッバンッ!!
ガチャリと重たい金属のトリガーを引き、瞬間的にヒナタちゃんが被弾した。
……って、ちょっとォォォォォォォォッ!!?
「ヒナタちゃんを傷つけるのはよくないでしょっ!?」
「大丈夫ですよ、ウシオさん。痛みや外傷はありませんから」
「いやでも弾が当たってるじゃん!」
「これは相手の視覚を混乱させる技なんです。ほらっ、目をこすってあっちこっち見回してるでしょう?」
少し高くなった声でギンがそう説明する。
言われてみれば確かにヒナタちゃんはまるで目が見えなくなったような様子だ。一定時間、相手の視覚を疑似的に奪う技なんて反則級でしょ。
「そんなことよりもウシオさん。早く拘束してください」
「えっ、あ、うん……」
シュババババババッ
「土守廊の術」
「バウっ!?」
ヒナタちゃんの周りの地面が隆起し、土の棺桶のように彼女の動きを奪う。
これはついさっきの術だ。
「この術に……っと」
シュババババババッ
「氷侵の術」
パキパキパキ……っ
土に含まれる水分が凍り、より堅固な拘束具にアレンジした。体温も少しばかり奪うため、拘束の面に関してはさらに効果的だ。
「これで大丈夫なんじゃないかな」
「そのようですね。あとはイネを待つだけですね」
「できた~っ!」
「「はやっ!!?」」
予想外の早さに僕とギンは声をそろえて驚いた。
なにはともあれ、フィナーレだ。
ヒナタちゃんに薬を打って、効果が現れるのを待つのみ。
獣人という病気を治せるかどうかはわからない。もしかすると完治するかもしれないし、逆に一つも治らない場合もある。
「頼むッ、治ってくれ……っ」
「いくよ……っ」
前者であることを祈り、イッちゃんが薬の入った注射器を突き刺す。